6-7 怒りのグリム(1)
その日の夜、グリムが帰ってくると雰囲気が違った。 向かいの部屋からセリナが出てきた。
「どうかしたのか?」
「グロリアが亡くなった」
「え、何故?」
「寝ている間に亡くなったようだね。 心臓発作かもね」
「心臓が悪いなんて聞いていたか?」 グリムは部屋に入って、グロリアの体を見た。 頭を触ってみると傷があった。
「やっぱり。 脳内出血を起こしたのかも知れない」
「警察は?」
「来やしないよ。 彼女はIDが無いからね」
「コニーはどうした?」 グリムは部屋を見渡した。
「店の男達が現れて、連れていったよ」
「何だって! それじゃあ、コニーは・・・・」
「オークションにかけられるだろうねえ。 かわいそうだけど・・・・」
「だめだ! それだけは。 ばあさん、店は分かるかい?」
「そりゃあ、分かるけど、どうするつもりだい?」
「コニーを取り戻す!」
「バカなことはおよし。 あんたが強くても返り討ちにあうよ」
「俺はグロリアと約束したんだ」 グリムはセリナから店の住所のメモを受け取ると、外に出た。
(俺の失態だ。 俺が頭の傷に気付いてやれれば。 無理にでも医者に診せるべきだった。 奴らに相応の報いを受けさせてやる)
グリムは闇の中、車を走らせた。
15分後、グリムは店の入っているビルの、裏手の道路に車を駐めた。 拳銃を確認しホルスターに戻した。 グリムは車を降りると、表に回って入り口から入った。 グリムは湧き上がってくる怒りに任せているため、作戦もなにもなかった。
「いらっしゃいませ」 近くにいた金髪の女が寄って来た。
「グロリアに暴力を振るった奴は、今日も来ているのか?」
「なに? あんた、彼女のいい人かい? あのこは死んだと聞いたけど・・・」
「いるのか、いないのか?」
「いるわ、アルザーという嫌な奴よ。 2階の3号室よ」
「グロリアの娘はどこだ?」
「4階の支配人の部屋よ。 どうするつもり?」
「助けに来た」 それを聞いた女は驚いた顔をしたが、すぐに真顔になると言った。
「分かった、こっちよ」 小声で言うとグリムの腕に手を絡めた。
「そんなに慌てないで、せっかちね。 4号室使うわね」 女はグリムから前金を受け取ると、フロントに渡した。
女の案内で2階に上がり廊下を歩くと、部屋の中から女の悲鳴が聞こえてきた。
「あの変態野郎、グロリアがいないから今日はナンシーがやられているわ」 その声は3号室から聞こえてきた。
グリムは3号室のドアノブを回すと鍵がかかっていた。 グリムは銃を取り出すと、鍵の部分を撃った。 そしてすかさずドアを開けて中に入った。 部屋の中には、やせ形で面長の男が、裸でベッドの上で女の上にまたがり、女の顔を殴っていた。
男はグリムが近づくと、驚いた顔でグリムを見た。
「なんだ、お前は! 出ていけ!」 男が怒鳴るのを無視して、グリムは男のほほを張った。
「何をする! 私を誰だと思っているのだ。 この街の議員だぞ」 グリムは黙って反対側のほほを叩いた。
「痛いじゃないか!」
「グロリアの痛みはこんなものじゃなかった」 グリムはまた殴った。
「止めてくれ! あんな女と一緒にするな」 グリムはまた殴った。
「ギャッ。 止めて、止めてくれ!」 男は泣き出した。
「グロリアもお前に止めてくれと言った。 それでもお前は止めなかった。 お前が彼女を殺したんだ!」 グリムはまた殴った。
「あの女は人ではない。 ID無しだ。 死んだからどうだというのだ」
数人の足音が廊下から聞こえた。
(時間が無い) グリムは銃を抜いた。 銃口を男の額に当てた。
「こ、殺さないでくれ・・・」 男は涙を流しながら懇願した。
「クッ、ゲス野郎!」 グリムは男を殺せなかった。 銃床で男を殴ると、男は床に倒れ込んだ。 グリムは男の股間を撃った。
「ギャーッ!」 男は股間を押さえて転げ回った。
廊下から二人の男が中をうかがった。 グリムは廊下に向って3発撃った。 男達は慌てて首を引っ込めた。 グリムは男の髪をつかんで顔を起こすと、顔を近づけて言った。
「こんなことを繰り返したら、今度こそ殺す。 覚えておけ!」 グリムは立ち上がると出口へ向った。
「彼が許しても、アタシが許さないよ! この変態野郎!」 部屋にいた女が、男の股間を蹴った。 男はあまりの痛みに悶絶した。