6-6 新たな問題
翌日、グリムがケニーと交替し車でアパートに帰ってくると、アパートの前でグロリアに会った。 グリムはすぐに異変に気がついた。 グロリアのほほに紫のアザがあったのだ。 ほほも少し腫れていて、明らかに殴られたものと分かった。
「どうしたんだ?」
「見ないで! 転んだのよ」 グロリアは手で隠した。
「客に殴られたのか?」
「・・・・・・」 よく見ると腕にもアザがあった。
「客の要求を拒んだら、殴られて・・・」 グロリアは瞳を潤ませて、グリムに抱きついた。 グリムは驚いたが、そのまま優しく抱きしめた。 グロリアは急に我に帰ったようにグリムから離れた。
「店は庇ってくれなかったのかい?」
「店にとってその客は上客だから、強く言えないのさ。 逆になぜ客の要求に応えないのかと責められたわ」
「そんな店辞めてしまうことは出来ないのか?」
「借金が残っていて辞められないの」
「借金て、幾らだ?」
「そんなこと聞いてどうするの? あなたにどうにかできることじゃないわ」
「そうだな、済まない」 グリムは立ち入りすぎだと反省した。
「いいえ、こちらこそ御免なさい」 グロリアはそう言うと、部屋に入っていった。
グリムは部屋に戻ると、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、部屋のソファーに座った。 ビールを開け一口飲むとため息をついた。
(問題は山積みだ。 サイクロプスが仕掛けてくるのは時間の問題。 防御態勢は取りあえず強化しているが、いつどう攻めて来るのかが分からなければ後手に回る。 どう攻める。 こちらから先に仕掛けるか。 ダメだ、戦力差がありすぎる。 リックの情報は使えないか? ダメだ考えがまとまらない)
翌日、グリムが仕事に向おうと廊下に出ると、向かいの扉の前でコニーが泣いていた。
「コニー、どうしたんだ?」
「おじさん、お母さんが死んじゃう。 おじさん、お母さんを助けて!」
グリムは驚いて、部屋に入った。 急いで寝室に入ると、グロリアが死んだようにぐったりとベッドに横たわっていた。 露出した肌には紫色のアザが増えていた。
「グロリア、大丈夫か?」 グリムは静かに肩を揺すった。 グロリアは低くうめいてから静かに目を開けて、虚ろな目でグリムを見た。
「グリム、どうしてここに・・・・」 グロリアの歯が何本か折れているようで、話しづらそうだった。
「コニーが心配している、君が死ぬんじゃないかと・・。 何があった」
「例の客が、アタシを根に持ってわざと指名してくるのよ。 アタシが拒否しても支配人が許さないの。 そいつは行為しながらアタシを殴るのよ。 アタシが泣いても許しを請うても、止めないのよ」 彼女の流した泪が目尻から下に流れ落ちた。
「なんて奴だ・・・。 警察に訴えられないのか?」
「ふ、アタシ等のような人たちのために、この街の警察はまともに動きやしない」
「・・・・」
「グリム、お願い! アタシは殺されるかも知れない。 そうしたらコニーは連れて行かれて、オークションで売られてしまうわ。 コニーだけでも助けて欲しいの。 奴らよりも先にコニーを連れ出して、安全な所へ預けて欲しいの」
「何だって・・・」
「あなたにこんなことを頼める義理は無いのだけれど、あなたしかいないの。 お願い」 彼女は泣きながら、グリムの手を震えながら握った。
「分かった、約束する。 だから医者に怪我を見てもらおう」
「だめよ、大人しく寝ていれば治るわ。 ありがとう、こんなアタシに優しくしてくれるのは、あなたくらいよ。 もっと昔にあなたに会いたかった・・・」
グリムは近くにあったタオルを水で濡らして絞ると、それを特にアザがひどい部分に当てた。 気休め程度にしかならないことは分かっていたが、少しは痛みが和らぐだろう。
(もう放ってはおけない。 仕事から帰ったら、支配人とその変態野郎と対峙しなければならない) そう決意しながら車に乗り込み事務所に向った。