6-4 協定
二人はピザを食べながら、話を続けた。
「お前は何をしようとしている?」
「サイクロプスの壊滅」 カエンはコーヒーでピザを流し込むと、ボソリと言った。
「何だと!」 グリムはカエンの目を見た。 目は笑っていなかった。
「無理だ、出来るわけがない」
「あなたはさっき、リックに『無理だと諦めたらそこで終わりだ』って言っていたわよね」
「うっ、それは・・・・」
「私は諦めないわよ」
「何があった」
「昔、仲の良い夫婦が街で小さなパン屋をやっていたの。 小さい店だけどそれなりに近所では評判の店だった。 だけどある日その場所に大きな商業施設が建つと言う計画があるという噂があったの。 それから色々な人が店の土地を売ってくれとやって来たわ。 でもその夫婦は売らなかったの。 そうしたらガラの悪い人達が様々な嫌がらせを始めたのよ。 客は次第に少なくなり、店はどんどん赤字になった。 店主は借金をしながらも、店を手放そうとはしなかった。 やがて借金がかさみ、結局は借金のカタに店は取られてしまった。 その頃、仕事に無理をした奥さんが体を壊し急逝した。 妻と店を同時失った店主はある日、首を吊って死んだわ。 少女を残してね」 カエンの目には涙が潤んでいた。
「それがお前の両親か・・・」
「そうよ。 そしてそこら一体の地上げを主導していたのが、サイクロプスのボス、ガーバン・ルーザー。 私の両親のような話は他でもあったの。 私はアイツを許さない」
「止めるんだな。 気持ちは分からないでもないが、一人で立ち向かうなんて無謀すぎる」
「そうね。 でも私はあなたを見つけた」
「何、何を言っている。 俺は手を貸さないぞ!」
「貸すわ! あなたはもう巻き込まれているのよ。 現にサイクロプスの構成員を、既に一人殺している」
「うっ、あれは自己防衛だ」
「そんな話、奴らに通じると本当に思っていないでしょ。 それにあなたは今、エクリプスのナンバーツーのボディガードをやっているのでしょう? サイクロプスはエクリプスに仕掛けるわよ。 否が応でもあなたは抗争に巻き込まれるわ」
「・・・・・・」
「お願い、手を貸してちょうだい。 あなたが助けてくれれば、きっと奴らを潰せる。 それはあなたの雇い主にとっても悪い話じゃないでしょ」
「だめだ、俺の任務の範囲を大きく逸脱している」
「頑固者! まあいいわ、考えておいてね」 カエンは、それ以上は言わなかった。
グリムはしばらく今後のことを考えていた。 カエンも考え込んでいたが、口を開いた。
「じゃあ、こうしましょう。 取りあえずお互いに連絡を密にして、有用な情報を共有するの。 私はサイクロプスの動きをあなたに知らせる。 そうすればあなたは仕事がしやすくなるでしょ」
「俺は何を提供する? お前の目的には手を貸せないし、雇い主に不利益になるような情報は流せないぞ」
「あなたの意見を聞きたいのよ。 サイクロプスの意図や今後どう動こうとしているのかとか、それによってどう言うことが引き起こされるかとかね」
「それなら、いいだろう」
「じゃあ、協定成立ね」 カエンはそう言うと、微笑みながら右手を差し出した。 グリムは渋々手を握った。
二人は腕の端末で電話の番号を交換した。 グリムが帰ろうとして立ち上がった時、思い出したように言った。
「そう言えば、探偵もやっていると言っていたな。 人捜しも頼めるのか?」
「出来るわよ。 誰か探して欲しいの?」
「ああ、アリア・クルーウエルと言う女性だ。 歳は25歳だ」 カエンはメモを取った。
「あなたの恋人?」
「だった。 彼女が今、幸せかどうか分かればいい。 急がないので、頼む」
「分かったわ」
グリムは大きな通りまで出て、タクシーを拾って帰った。