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5-7 スカウト(2)

 グリムとクレイは契約について話を進めた。

「報酬は1万グラン、プラスボーナスだ。 それとIDを用意する」クレイは引き出しの中から書類を取り出すと、グリムに渡した。 書類には男の経歴と写真が付いていた。

(マイケル・スレイダー、25歳。 元軍人か)

「そいつが今日からお前の本名だ。 経歴は頭に入れておけ」

「分かった」 グリムは軍にいた時に、敵地潜入工作のために偽装の経歴を覚えてその人間になりきる訓練を受けていたのだった。

「写真があると言うことは・・・」

「その通り、そのIDは偽造ではなく本物だ」

「それじゃあ、本人は・・・・」 グリムはクレイを疑わしげな目で見た。

「何だその目は? 俺達がこいつを殺したとでも思っているのか?」

「違うのか?」

「お前は俺達がどんな奴らだと思っているんだ? ある有力者のバカ息子が、こいつを車で轢いて死なせたんだ。 そしてその有力者が、俺達に事件のもみ消しを依頼した。 俺達は密かにその車と死体を処分しただけだ」

(十分違法なことをしているじゃないか!)

「左手を出せ」 クレイは銀色の銃のような物を持って近づいた。 そして左手の甲に当てると、引き金を引いた。 一瞬針を刺すような痛みがあるが、それだけだった。 マイクロチップが埋め込まれたのだった。

「これで、お前はどこにでもいける。 そいつの口座に前金として5千グラン振り込んである。 暗証番号はこれだ」 そう言うとメモを渡した。


 「さて、次だ」 そう言うとクレイは立ち上がり、床の角の絨毯をめくった。 そこには四角い扉があった。 クレイが取っ手を持って扉を引き上げると、そこには下に降りる階段があった。

「ついて来い」 グリムは、そう言って階段を降りるクレイについていった。 下の階に降りると、クレイが灯りを点けた。

「このビルは4階建てに見えるが、実は5階建てなのだ」 ここは秘密の階だった。 フロアの壁全面に様々な銃がかけられていた。 拳銃から自動小銃、ショットガン等だ。 フロアの真ん中の台の上にも、銃だけではなくロケットランチャーや手榴弾まであった。 まるで銃砲店か武器商人の店のようだった。

「うちの商品の一部だ。 好きなのを選べ」


 グリムは拳銃のところへ行くと、旧いタイプの32口径のハンドガンを見つけた。 セミオートマチックのタイプで、弾倉を抜いてから差し込んだ。 グリップの握り具合や引き金の重さを確かめると、クレイに言った。

「これでいい」

「もっと、大きなやつもあるぞ」

「象でも撃つのか?」

「そうじゃないが、小さくないか?」

「分かっていないな。 護衛と言うことは、近距離での使用になる。 威力よりも素早くて扱いやすいことが重要だ。 小さ過ぎず、大き過ぎず、携行しても目立たない。 これでも威力は十分だ。 殺すつもりならば、頭に二発撃ち込めば良い」 グリムは銃口をクレイの頭に向けた。 クレイは弾が入っていないことが分かっていても、背筋が寒くなった。

「それに、本当に殺すつもりならば、こんな物は必要ない。 これで十分だ」 そう言うと、グリムは胸ポケットからボールペンを取りだして見せた。 クレイはそれが強がりでもハッタリでも無いことが分かった。

「なるほど。 弾は下の棚にある」 グリムはその銃に合うホルスターと弾を一箱一緒に持って上に上がった。


 「契約書は明日までに作っておく。 明日からここに来てくれ」

「そんな物は必要ない。 俺は、約束は守る、そちらが約束を破らない限りはな。 もし、そちらが約束を違えた時は、死んでもらう」

「良いだろう。 分かった」


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