5-6 スカウト(1)
翌日グリムが店に行くと、支配人が慌ててやって来た。
「グリム、オーナーからここへ行くようにとのことだ」 支配人が住所の書いたメモを渡した。
「オーナーが?」
(昨日のエディと呼ばれていた人か? それにしても何故?) グリムは嫌な予感がした。
1時間後、グリムはとある4階建てのビルの最上階の一室にいた。
「良く来てくれた、グリム。 まあ、かけてくれ」 昨夜の眉毛の傷の男が言った。
「はい・・」 グリムはソファーに座った。 男は向かい側に座ると言った。
「俺は、クレイ・ローガンだ。 もう知っているかと思うが、エクリプスと言う組織に所属している」
「知っています」
「なら、話は早い。 率直に言おう、俺の部下になってくれ」
(やっぱり、嫌な予感が当たった)
「お断りします」 グリムはキッパリ言った。
「ハッキリ言ってくれるな。 理由は?」
「犯罪組織とは関わりたくありません」
「確かに我々の組織は、王国の法を守った清く正しい行いをしているとは言わない。 だが、俺達には俺達の正義がある。 法の下では生きられない者達が身を寄せ合いながら、生きるためにもがいているんだ。 サイクロプスやケルベロスの外道どもと一緒にしないでくれ」
「それでも・・・・」
「それじゃあ、期間を切って契約にしよう。 今の抗争に決着がつくまで、半年間俺のボディガードとして雇いたい。 ビジネスライクでかまわない」
「しかし、それでもお断りします」
「ふうっ、やはりダメか。 ならば手を替えよう、あまり使いたく無かったが・・・」 そう言うと、クレイはたばこに火を点けた。
(クソッ、本性を現わすのか) グリムは身構えた。
「俺は商売がら、顔が広い。 軍や警察にも知り合いが多いのだよ」
(何だ、こいつ。 何を話す気だ?)
「前に軍の知り合いから面白い噂を聞いた。 戦場の特殊部隊に特別優秀な兵士がいたと。 そいつは、選別された優秀な兵士達の中でも桁違いの強さを持っていた。 しかし、あまりに強すぎて仲間がついて行けず、戦果に比例して味方の損耗率も高くなった。 やがてそいつは、敵からも味方からも“死神”と呼ばれるようになったと・・・」 そう言うと、クレイはたばこを吸いながらグリムの顔を見つめた。
(知っている。 こいつ、俺の正体を知っているのか?) グリムは平静を装った。
「ところが、さすがの死神もついには死んでしまったと聞いた。 俺はどんな優秀な兵士でも、やはり人の子なのだなと思ったものだ。 だが先日、死んだと思われていた死神が生きているらしいと聞いた。 しかもこれは極秘だが、味方の指揮所を襲ったと言うのだ」
(やっぱり、こいつ俺の正体を・・・・) グリムは最悪の場合、4階の窓から逃げ出すことを想定した。
「そして先日、警察署長からこれをもらった。 こいつは今、全国に指名手配になっているそうだ」 そう言うと、テーブルに一枚の写真を置いた。 それはユーゴの写真だった。
(警察とも癒着していると言うことか。 こいつは、どうするつもりだ? これをネタに俺を脅すつもりか?) グリムは窓の方を見た。
「おっと、早まらないでくれよ。 俺は軍や警察に協力するつもりはない」
「・・・・・」
「俺に手を貸してくれ! あんたが何者かとか関係ないし、あんたの目的とかに干渉する気はない」クレイは真剣な面持ちで言った。 グリムはしばらくクレイの顔を見ながら考えていたが、やがてため息を一つつくと言った。
「俺はあんたらの悪事に手を貸すつもりはない。 だが、あんたの護衛だけなら引き受けよう」
「おお、それで結構だ」 クレイは嬉しそうに言った。