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5-3 就活

 翌日からグリムの仕事探しが始まった。 と言っても、マイクロチップのない者など、まともな所は雇ってくれない。 そして雇ってくれたとしても、時給は通常の半分以下だ。 弱い奴はとことん搾取される。 クソみたいな世界だ。


 グリムは民間の職業斡旋屋を訪れた。 聞こえは良いが潜りの斡旋所だ。 王国が行なっている斡旋所は、もちろん行くことが出来なかった。 マイクロチップが無い者など、犯罪者の可能性があるとみられて色々と詮索された上に、警察に通報される恐れがあるからだ。 斡旋屋から紹介される仕事に選り好みをしてはいられないグリムは、言われるままに行って働いた。 しかし、接客業は愛想が無いと言われすぐ首になった。 工事現場は機械化が進み、機械が扱えないと無理だと言われた。 運送業は、運転してすぐにトラックをぶつけた。 職探しをして三日が経ったが、まだまともに働けていなかった。


 4日目、職業斡旋屋

 書類を見ながら、赤い縁のめがねをかけた20代の女が、ため息をついた。

「はあーっ、これだから兵隊は潰しがきかない。 あっ、失礼。 グリムさん、あなた何なら出来るんですか?」

「・・・・」

「表の仕事は無理ですかね。 そうなるとちょっと際どい仕事しかないですよ」

「際どい仕事?」

「そうですねぇ、例えば、・・・・。 地下プロレスの試合に出るとか。 グリムさんは兵隊さんだったんでしょう? 腕っぷしは自信があるのではないですか?」

(地下プロレスはまずいだろう。 勝ち負けはともかく、観客が集まる。 名前が知れ渡れば、正体がばれる可能性が高くなる。 警察や軍もチェックを入れているはずだ)

「いやあ、俺は補給部隊だったので、試合に出られるほどは・・・・」 グリムはそう言うと、頭を掻いた。

「チッ」 女が小さく舌打ちした。

「でも、護衛程度なら出来ると思います・・」

「護衛ですか。 少し違いますがまあ、良いでしょう。 では、ここへ行ってください」 彼女はそう言うと、一枚の紙を渡した。


 数時間後、繁華街のクラブ

 グリムは黒いスーツを着て、店の壁際に立っていた。 隣には身長190以上のレスラーのようなごつい体をした男が、一緒だった。 灯りを少し落とした店内には三組の客がいた。 客の男達の両脇には、派手な化粧の女性達がはべり媚びを売っていた。 グリムの仕事は、トラブル対応と言えば聞こえは良いが、要するに酒場の用心棒であった。


「おい、新入り。 言っておくが、客が酔っ払ってトラブルを起こしても、客に手を出すなよ」 隣の強面の男が言った。

「分かりました」 グリムは応えた。


 二時間後、店のフロアは一杯になった。 あっちでもこっちでも、客の大声の笑い声が聞こえた。 それに合わせて女達の笑い声も店に響いた。 グリムは店の内部を見渡し、異変が無いか気を配った。 隣の男は下を向いてあくびをこらえた。

 すると突然、左奥の席の女が大きな声を上げた。


「嫌だって言っているでしょ。 ここはそう言う店じゃないのよ。 このスケベ親父!」

「なんだ、その態度は。 すこし胸を触ったぐらいで、俺は客だぞ!」 男は怒って立ち上がった。


「はあ、オイ新入り。 お前が行ってこい!」隣の男がグリムに言った。

「分かりました」 グリムはそう言うと、客の方へ向った。

(とは言うものの、どうするか)


「お客様、どうかいたしましたか?」グリムは無理に笑顔を作ると、丁重に話した。

「こいつがさっきからしつこく私の胸に手を入れてくるの」 女が客を指さした。

「こいつとはなんだ。 こっちは客だぞ。 高い金出しているんだ。 少しくらい胸に触ったからって、減るもんじゃねえだろう」 客は益々怒って、大声で怒鳴った。

「お客様、他のお客様のご迷惑になりますので、お静かにお願いいたします」

「俺だって客だぞ! なめてんのか、てめえ!」 男はそう言うと、グリムに殴りかかってきた。

「申し訳ございません」 グリムはそう言って頭を下げると、男のパンチをかわした。 男は肩すかしを食らって、その勢いで前に転んでしまった。

「あらあら、お客様お怪我はございませんか?」 グリムは手を貸して男を起こした。 男は恥ずかしくなって、収まりがつかなくなったのか、またグリムを殴ろうとした。

「申し訳ございません、お客様」グリムはまた頭を下げると、そこへ男が突っ込んできて、顔面をグリムの額にぶつけてしまった。

「グワッ!」 男は鼻を押さえて床に座り込んでしまった。 

「お客様、どうされました? 飲み過ぎたようですね。 今日はもうお帰りになられた方がよろしいですよ」 グリムは男を立たせながら、耳元でささやいた。

「これ以上恥をかきたくなかったら、大人しく帰るんだ」 男は一瞬で酔いが覚めたかのような顔になり、大人しくグリムと出口の方へ歩いて行った。

「お客様お帰りです!」グリムは客を会計の方へ連れていった。 グリムは客が会計を済ませると、店の外まで見送った。


「なかなかやるじゃ無いか新入り」強面の男が言った。

「ありがとうね。 あなた名前は?」 さっきの女が言った。

「グリム」

「そう、アタシはカエン。 よろしくね」 女が右手を差し出した。


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