4-5 砦防衛戦(3)
「俺も行こう」ゼオルが言った。
「ゼオルはダメだ! お前はクオン村の戦士達を、無事に村に連れ帰る責任がある。 それに俺にはマザーの位置がおおよそ見当がつくし、一人の方が動きやすい」
「お前、死ぬ覚悟だな。 俺はお前も村に連れ帰る責任があるんだぞ!」
「俺はそう簡単には死なない。 だが、・・・・俺は村には戻らない・・」
「何だと! 何故だ、エリオラ達と約束しただろう」
「それは、俺が何者かを知ってしまったからだ。 俺はカーセリアル兵として、アルクオンの人々を殺した。 知ってしまった以上、今までのようには暮らせない。 もしかしたらエリオラの夫のアルカンを殺したのも、俺かも知れないのだ・・・」
「エリオラは知っていたと思うぞ。 お前がカーセリアルの兵士だと言うことは・・・」ゼオルは静かに言った。 グリムはそう言われて思い出した。 自分が気がついた時は、バトルスーツは着ていなかった。 つまりエリオラが脱がせてくれた。 そしてそれが村人に見つかるとまずいと判断して隠したのだろう。
「それに、村でお前の処遇を話し合った時にも、お前が脱走兵ではないかと言う話が出たのだ。 それでもお前が山の神の審判を受けたことで、それ以降は誰もそれを口にしなくなった。 それは、どうでも良いと言うことだ。 お前はもうクオン村の人間なのだ」 ゼオルはグリムの肩を叩いた。
「それでも、・・・俺は戻る訳にはいかない」
「何故だ! お前は村に必要な人間だ。 俺はお前に戦士長を譲っても良いと考えていたのだぞ」
「ありがとう。 だが、俺はケリを着けなければいけないことがあるのだ。 俺は味方に撃たれた。 理由は分からないが、俺が生きていては都合が悪い奴がいるらしい。 そいつを見つけて相応の報いを受けさせる」
「では、どうしても戻らないのか・・・」
「ああ、俺はマザーを破壊したら、そのまま姿を消す。 すまないが、エリオラとペックには俺は戦死したと伝えてくれ」
「俺には、そんなことは言えない・・・。 エリオラ達にはお前は行方不明だとだけ伝えよう。 だが彼女達のことは心配するな、俺が気にかけるようにする。 そっちの問題ごとが片付いたら、必ず戻ってこい。 お前はクオン村のグリムだ」
「ありがとう」
翌日、戦いは昨日と同様に未明から始まった。 グリム達は襲撃を予想していたため、迅速に応戦した。 戦いは昨日よりも激しくなったが、それでも良く守った。 その日も敵は攻めあぐね、撤退の気配が見えた時、グリムはゼオルの顔を見た。 ゼオルもグリムの顔を見て小さく頷いた。 グリムは立ち上がり、防御壁から身を乗り出して斜面を登ってくる敵兵を弓で攻撃した。 敵も銃で反撃したその時、グリムが声を上げた。
「ぐわっ!」 グリムはそのまま、防御壁の狭間から斜面に落ちた。
「グリムが撃たれたぞ!」ゼオルが叫んだ。 そしてゼオルが防御壁から斜面を覗いた時には、急峻な斜面とその下に広がる鬱蒼とした森だけで、グリムの姿はどこにも見えなかった。 ゼオルは昨夜のグリムの言葉を思い出していた。
「3日、何とか3日持ちこたえてくれ!」
(死ぬなよ、グリム)
グリムは砦の防御壁から落下中、空中で体を回転させると斜面を蹴り、森の中に飛び込んだ。 幾つもの枝が折れたが、衝撃を吸収してくれたお陰でグリムは無傷だった。 グリムは辺りを注意深く観察し、敵が近くにいないことを確認すると、森の奥に消えていった。