4-4 砦防衛戦(2)
グリムは、ゼオルに頬を叩かれ意識を取り戻した。
「ここは、どこだ? うわっ!」グリムはゼオルの顔を見て驚いた。
「どうした、グリム。 大丈夫か?」
「グリム?・・・ああ、そうか、大丈夫だ、ゼオル。 あっ、痛たた・・・」 グリムは頭を押さえた。
「頭を打ったのか?」
「ああ、だが大丈夫だ。 敵は?」グリムは頭を押さえながら、ゆっくり立ち上がった。
「奴らは撤退した。 今日のところはな・・・」
「そうか、それは良かった」 グリムの声は弱々しかった。
「少し休んだ方が良い」
「ああ、そうさせてもらう」グリムは建物の中に入っていった。
夕食の後、グリムはゼオルを呼び出した。 防御壁の所へ行き、月夜の中で話した。
「どうしたんだ? こんなところで、他の奴らに聞かれたらまずい話か?」
「ああ、そうだ。 ゼオル、今回の作戦をどう思う?」
「どうって、俺も一戦士長だ。 上の連中の考えていることは良くは分からないが、それがどうしたのだ?」
「この砦はヤバイぞ。 この砦は囮だ。 恐らく5日と持たないだろう。 俺達は全滅するぞ」グリムはゼオルの目を見つめた。
「何だと! どう言うことだ」
「恐らく敵の作戦はこうだ。 敵の地上部隊は実はそれ程多くない。 恐らく3千から5千だ。 森が深いため、兵が多すぎても機動性が落ちるし、数の優位性を発揮しにくい。 そのため効率良く侵攻するために、特殊部隊で奇襲をかけて防御力を崩し、その後地上部隊が一気に制圧するという作戦だ。 そして3つの砦に対して、同時に攻撃するのではなく、一つの砦に狙いを絞り各個撃破していくのだ」
「・・・・・」 ゼオルは驚きながらも黙って聞いていた。
「それに対してこちらの作戦は、一万の兵を真ん中に1千、右と左の砦に残りを分けて配置。 敵が兵を三分して同時に攻めるならば、ここを犠牲にして残り二つで勝つ。 もし敵が全軍でここを攻めれば、左右の砦の兵が密かに敵の側面や背後を攻めるというものだろう」
「では、ここは・・・・」
「最初から捨て駒だ」
「でも、しっかり守っていれば、両方からの軍勢が敵を撃退してくれるのだろう?」
「恐らくそれは、うまくいかないだろう」
「何故だ?」
「奴らに我々の動きが筒抜けだからだ」
「どう言うことだ?」
「奴らがかぶっていたカブトには、こちら側の兵士の位置や動きが映し出されるのだ。 奇襲をかけるつもりで密かに近づいても、裏をかかれる」
「何故、お前がそんなことを知っているんだ?」
「それは、・・・俺がそこにいたからだ」
「お前、記憶を取り戻したのか?」
「ああ、俺の名前はユーゴ・ケンシン。 カーセリアル王国軍205特殊作戦部隊、別命ハルバードの少尉だ」 グリムは困ったような顔で言った。
「それで、お前は戻るのか? 向こうに・・・」
「いや、俺はこの人達と戦いたくはない」 グリムはそう言うと、腰からナイフを取りだした。
「何をするつもりだ」ゼオルが驚いて言った。 グリムはそれには答えず、ナイフの先を左手の甲に当てると小さな傷を付けた。 そうして手の甲から3ミリほどの小さなカプセルを取りだした。 そのカプセルを地面に置くとナイフの柄で叩き潰した。
「これは、俺の情報が入っている。 そして微弱な電波を出して、位置が分かってしまうのだ。 俺は既に戦死扱いになっているだろうし、これで大丈夫だ」
「そうか、これでお前は本当にクオン村のグリムになったのだな」 ゼオルは安心したように言った。
「だが、問題がある。 さっきも言ったように、この砦はこのままでは全滅するぞ」
「何か考えがあるのか?」
「一つだけある。 カーセリアル軍の背後には、情報支援と戦闘指揮のための移動指揮所がある。 俺達は“マザー”と言っていたが。 これが各兵士に敵の情報や具体的な攻撃命令を出しているのだ。 これを潰す。 そうすれば各部隊は、我々の動きも把握出来なくなり、こちらの作戦も成功するだろう。 更に兵達は迷子になり各部隊の連携もままならなくなって、撤退せざるを得なくなるだろう」
「ううむ、だがどうやって、そのマザーとかを潰すのだ? 司令官に進言して特別攻撃隊を編制してもらうか」
「ダメだ! 第一そんな話を誰が信じる? 俺がカーセリアル兵だと言わない限りはな」
「あっ、そうか。 そんなこと言える訳がないな」
「俺が行く! 俺が潰す」グリムはキッパリと言った。