4-3 砦防衛戦(1)
グリム達は三日後の夕方、サルバンに到着した。 ここで各地から集められた兵士(戦士)約1万が再編され、翌日サルバンから100キロほど南西の三つの砦に送られた。 グリム達はサルバンを出て深い森を通りようやく5日目に砦に到着した。 森の中の岩山を利用した砦で、下からの防備には適しているように思えた。 そしてこの砦の東と西約10キロに同規模の砦が二つあるとのことだった。
グリムには違和感があった。 この砦に配備された兵は約1千だった。
(おかしい。 1万の兵が送られたはずだ。 普通に考えれば、ここには3千から4千の兵がいて良いはずだ。 それがどう見ても1千以上ではない)
兵達にまず命じられたのは、周辺の防御壁の修復だった。 破壊されているところが何カ所も見受けられた。 敵は数十キロ南にまで侵攻していて、数日後には攻めて来るだろうと見られていた。
それが始まったのは、4日目の未明だった。 グリムは突然目を覚ました。
「来るぞ! 起きろ!」 グリムは戦士達に叫んだ。
「どうした、急に・・・」とゼオル。
「敵が迫っている。 備えるんだ!」
「分かった。 戦闘準備だ!」 兵達は一斉に配置についた。 まだ夜明けには時間がある。 森は静まりかえっていた。 砦の司令官は疑わしい顔で言った。
「敵襲だと。 寝ぼけているんじゃないのか? 嘘だったら懲罰だぞ!」
「グリムはアクロ使いです。 我々が聞こえない音を聞き取ることができます」とゼオルが庇った。
「来る。 空からだ。 南西から20人、東から20人、そして北から20人だ」防御壁に隠れながらグリムが言った。 兵士達が弓を握った。
突然一斉に全身黒ずくめ兵士が、三方から砦の上空に現れた。
「来たぞ! 放て!」指揮官の命令に兵達が一斉に立ち上がり、矢を放った。 黒い兵士達は、敵が備えていたことに一瞬驚いたが、すぐに銃の連射で反撃した。 グリムは一度に二本の矢をつがえると素早く放った。 二本の矢は別々の軌道を描き、二人の兵士の胸に突き刺さった。 二人の兵士は意識を失い、そのまま闇の中に消えて行った。
その時、グリムの頭に衝撃が走った。 それは外からの打撃ではなく内部からの刺激だった。 グリムの心拍数が急激に上がった。 グリムはめまいを覚え、防御壁にもたれるように座り込んでしまった。
(何だこれは? 見覚えがあるぞ、あの男達。 前にもこんな経験がある感じだ) 呼吸が速くなった。
「どうした、撃たれたのか?」とゼオル。
「イヤ、大丈夫だ。 少しめまいがしただけだ」 グリムはそう言うと呼吸を整え、弓を持ってまた立ち上がった。 そしてまた二本の矢を同時に放ち、二人を同時に撃ち落した。
黒い男達の空からの攻撃はしばらく続き、東の空が次第に明るくなってきた。 黒い男達は、奇襲が失敗したと判断したのか、突然撤退を始めた。 それと同時に砦の登り口に別の兵団が現れた。 彼らは緑と茶色のまだら模様の服に沢山のポケットの付いたベストを着ていた。 黒い兵達のように背中に空を飛ぶための装置は背負ってはいなかったが、まだら模様の同じようなヘルメットを被って手には銃を持っていた。
寄せ手は登り口に爆薬を仕掛け破壊すると、一気に突撃を開始した。 それに対して砦の兵達は一斉に矢を射かけた。 それにも怯まず敵兵は第二の門に迫るが、守備兵の攻撃が激しく近づけなかった。 攻防は半日近く続いた。 そんな中突然門の内側に何かが飛んで来て、地面に落ちた。 グリムはそれを見て、青ざめた。
「危ない! 伏せろ!」グリムはそう叫ぶと、近くに立っていた若い戦士を庇うように飛び込んだ。 その後、それは爆発した。 グリムは爆風で防御壁に叩きつけられ、そのはずみで後頭部を打ちつけた。 そして意識を失った。