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4-2 招集

 グリムがクオン村に来て1年半が経ったある夜、急にグリムに会議があるということでライカイから使いが来た。


 「今日集まってもらったのは、カーセリアルとの戦争の件だ。 いよいよカーセリアルのサルバンへの侵攻が本格化するらしい。 今まではこんな小さな村までは招集されなかったが、今回サルバンの領主様はこの村から50人の戦士を出すようにとのことだ」

「50人と言えば、この村の戦士のほとんどではないですか」 顔役の一人が言った。

「応じるのか?」別の顔役。

「断ることは出来ない」とライカイは沈んだ面持ちで応えた。

「カーセリアルの外道どもめ!」

「人選はどうするのだ?」

「持病がある者を除き、上の年齢の者から選んでいくつもりだ」とゼオル。

「出発はいつだ」

「三日後だ」 ゼオルの言葉に顔役達も言葉が出なかった。

「グリム、悪いがお前にも参加してもらう。 良いな」とライカイ。

「分かりました」 グリムはそう応えるしか無かった。


 グリム達の家

 「えーっ、そんな、嫌だよ! 父ちゃんも戦争に行って帰って来なかった。 おじさんも帰って来ないかも知れないじゃないか」ペックは泣きながら言った。 これにはグリムも困った。 戦争なのだから必ず生きて帰れる保証はない。 この場は“必ず生きて帰る”と言うべきなのかも知れないが、子どもに対してその場しのぎの安易な約束も出来なかった。 エリオラも目に涙を溜めていたが、ペックの手前もあるので、必死にこらえていた。


 翌日、ゲリオルの家

 「ついに招集が来たな」 ゲリオルは薬草を分別しながら言った。

「はい、ゲリオル殿の言った通りになりましたね」

「儂は村の戦士達の無事を山の神に祈ると供に、この先のことを占ってみた」

「どうでした?」

「うむ、何と言うべきか。 戦士達には大きな危機が迫るだろう。 戦争なのだからこれは当然かも知れん。 そして何かを失うことによって、それは好転するとある。 儂はその鍵を握っているのがお前だと考えている」

「私が、ですか・・・・」

「うむ、儂はお主を嫌いではない。 お主は村の一員として良くやってくれた。 村の多くの者達も、お主が村の中心的な人物になっていることに異論は無いだろう」

「ありがとうございます」

「だが、儂は胸騒ぎがするのだ。 お前がもう戻って来ないのでは、とな」

「・・・・・・」

「良いか、十分注意するのだ。 そして戻って来い」

「はい」


 出発前日の夜、小屋の外

 「エリオラ、そんなに心配するな。 俺は戻ってくる」

「も・・もう・もどって・・・こ・こない・・・」 エリオラは泣きながら絞り出すように言った。

「しゃべれるようになったのか」

「き・きっと・・・もう・・もどって・こないわ」

「俺は生きて帰って来る」 グリムはエリオラを抱きしめた。

「かならず・・・いきて・・・」

 グリムはエリオラの顔を見つめ、指でエリオラの涙を拭くと、静かに口づけをした。


 翌日の朝、ゼオルを始め50名の戦士達は、村人に見送られながら、サルバン目指して出発した。 年長の戦士達は、戦いがどのようなものか知っているため、表情は明るくはなかった。 それに対して若い者達は、自分が死ぬことなど考えられないのか、英雄になることを夢みて興奮気味だった。 グリムは不思議と死と言うことに無頓着になっていた。 ただ自分の死を恐れてはいなかったが、エリオラやペックのためにも生きて帰りたいと思った。 見送りの中にはエリオラもペックもいた。 ペックは泣きそうなのを必死にこらえていた。 昨夜、グリムと「泣かずに、母ちゃんをしっかり助ける」と約束したからだった。 村人達は、戦士達が見えなくなるまで見送った。 そして、その日シックルが村から姿を消した。


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