表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/157

4-1 つかの間の幸福

 魔獣の襲撃から二週間、グリムを取り巻く環境は大きく変わった。 ライカイはグリムを邸に呼ぶと、あらためて礼を言った。 ライカイは上機嫌だった。 何しろ魔獣のボスと半数以上を撃退したのに、こちらの死者はゼロだったのだ。 怪我人も若い戦士が一人、屋根から滑り落ちて腕を骨折しただけだった。 グリムはライカイから、エリオラの小屋の側の荒れ地について、自分で開墾するならばそれは自分の畑として所有して良いと言われたのだった。 更にグリムは、村の重要な会議の時には必ず呼ばれるようになった。 つまり村の重要人物として、顔役並の待遇になったのだった。 そしてグリムは、控えめながらもいつも適切な意見を述べた。 またグリムが村の中を歩くと、皆気軽に声をかけ野菜や肉などを分けてくれるのだった。 若い戦士達は憧れの目でグリムを見、緊張しながら敬語で話しかけた。 村人の変化はエリオラやペックにも及んでいた。 それまでは無視されることが多かったエリオラに対して、奥様方が何かと気にかけて誘ってくれるようになったのだ。 ペックもこれまでは村の子ども達にいじめられたり、遊びの仲間に入れてもらえなかったりしていたのだが、今では一緒に遊んでもらえるようになった。


 グリムは荒れ地の切り株を掘り起こし、石を拾い、少しずつ耕していった。 夕方になり、ペックが迎えにきた。

「おじさん、母ちゃんがご飯だって。 一緒に帰ろう」

「ああ、分かった」 グリムはクワを担いで、ペックと手を繋いで家に向った。 家(小屋)が近くになるにつれ、料理の匂いが鼻に感じられた。 グリムは今幸せを感じていた。 村長達はグリム達のためにもう少しましな家を建てようと、話し合っていると言うのを聞いた。 しかしグリムは今でも十分幸せだった。 自分が何者かが分からないのは不安だった。 審判を受けた時の山の神?(もしくは山の主?)の「お前の回りには多くの死が訪れる」という言葉が引っかかってはいた。 だが今はそれらのことはどうでも良いと思えてきた。 この幸せをいつまでも守りたいと思えてきたのである。 二人が小屋の前に着くと、入り口の前でエリオラがにこやかに微笑みながら待っていた。


 夕食の後、三人は火を囲んでくつろいでいた。 エリオラはグリムの破れたズボンを繕い、ペックは眠そうなシックルをかまって、手を尻尾で叩かれていた。

「そうだ、おじさん知っている? おいら達のじいちゃんのじいちゃんのずうーっとじいちゃん達は、空からやってきたんだって。 父ちゃんが教えてくれたんだ」 ペックは嫌がるシックルをかまわずになで続けたため、軽く甘噛みの逆襲をうけ慌てて手を引っ込めた。

「えっ、そうなんだ」

「オイラ、細かいことは分からないけど。 その最初のじいちゃん達は、ここで暮らすために船やそれまでの道具を捨てたんだって」

「なかなか興味深い話だな」

「ゲリオルのおじさんなら、もっと詳しく教えてくれると思うよ」

「分かった。 そのうち聞いてみよう」


 数日後、グリムはゲリオルの家を訪れた。 時々、薬草のことを色々教えてもらっていたのだ。 薬草の件が済むと、グリムは思い出したように、ペックから聞いた話をした。 ゲリオルは笑いながら言った。


「そんな話は、皆が知っている話だ。 この地は元々人が住む地では無かった。 それが約400年前、我々の祖先は空を飛ぶ船に乗ってこの地に降り立ったのだ。 なんでも今まで住んでいた地が何らかの理由で人が住めなくなり、船に乗って新たな土地を求めて長い間さまよっていたらしい。 そして当時の人々は、船を空に飛ばせられるくらい高度な技術を持っていたが、元の地が人の住めない地になったのはその技術のせいだと考えた人々は、新たな地ではその技術を使わないことに決めたのだ。 その代わりにこの地の神は、我々にアクロの力を授けてくれたのだ」

「高度な技術?」

「儂は、それはカーセリアルの連中の技術だと思っている。 奴らは空を飛び、火薬で鉄の球をはじき、鉄の魔獣を操って山を削り高い塔を幾つも建てる」

「・・・・・」

「カーセリアルの人々も空から来たと言われている。 恐らく同じ所から来たのだと儂は考えている。 しかし奴らはこの地に合わせた生活をしようとはせず、前の暮らしをここで再現しようとしているのだ」

「その意見の違いから、戦争になっていると言うことですか?」

「詳しくは分からぬが、それだけでは無いだろう。 ただカーセリアルがこの地に降りたってからまだ200年と経っていないという話だ」

「そうですか」

「そのカーセリアルだが、更に侵攻に力を入れてきていると聞く。 この村の戦士に招集がかかるのもそう遠く無いだろう」

「・・・・・」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ