3-8 魔獣襲来(5)
ムスガルのボスは、信じられないような速度で突進してくると、棍棒でグリムに殴りかかった。 グリムはそれをギリギリのところでかわしたが、すかさずボスの左フックが襲った。 グリムはそれも頭を下げて回避した。 ボスはそれでも動きは止まらず、次々と切れ間なく攻撃を加えた。 グリムはそれを下がりながらもかわし続けた。 ボスはかわされ続け、苛立っているのが分かった。 攻撃は更に強くなり、振り回した棍棒は回りの木々をなぎ倒していった。 グリムはずっと冷静だった。 ボスの攻撃をかわしながらも回りに気を配り、じっと機をうかがっているようだった。
「ウンガーーーーッ!」ボスは怒りの咆哮をあげた。 左の拳でグリムに殴りかかった。 グリムは大きく後方に跳び上がり宙返りをして地面に着地した。 ボスは更に怒り、グリムを捕まえようと足を踏み出した。
「かかった!」グリムは“ニヤリ”と笑った。 ボスが右足を踏み出すと、急に地面が沈み込んだ。 ボスはそのまま前のめりに倒れるとそのままスッポリと落とし穴に落ちた。
「グアッ!」とボスは大きな悲鳴を上げた。 何故なら穴の中に無数の槍が立てられていたのだ。
「今だ!」 グリムが屋根に向って叫んだ。 その声を合図に畜舎の屋根にいた戦士達は、一斉に弓を構え腹に何本も槍が刺さりもがいているボスの背中に矢を放った。 ボスの背中に無数の矢が刺さり、ハリネズミのようになった。 ボスは更に悲鳴を上げたがやがて動かなくなった。
グリムは注意深く、ボスの様子を観察していた。
(やったのか? 本当に死んだのか?) グリムが疑いながら慎重に近づくと、ボスが急に立ち上がり右腕をグリムの方に向けると、青い稲妻をまとった掌から雷撃を加えた。 しかしグリムの動きの方が一瞬早かった。 意識を集中したグリムにとって、ボスの動きはスローモーションの映像を見ているような感覚だった。 グリムはボスの攻撃を避けながらボスの肩に乗ると、握った剣をふるってボスの首を刎ねた。 ボスの巨体は、再び穴の中へ倒れ込み、はね飛ばされた首は穴の外に転がった。
「グギャッ、グギャッ」 残された魔獣達が一斉に動揺して騒ぎ出した。
「今が追撃の好機だ!」各班長が戦士達に命令した。 屋根の上の班はもちろん、放牧地周辺に潜んでいた戦士達が一斉に現れ、魔獣達に矢を浴びせた。 魔獣達は怯え、我先に山に逃げようとした。 更に魔獣達は逃げる途中をゼオル達の班に追い打ちをかけられたため、多くが討たれた。 無事に逃げおおせたのは半数以下だった。
「我々の勝利だ!」 ゼオルが戦士達を集めると宣言した。 戦士達が一斉に勝ち鬨を上げた。 ゼオルがグリムを側に呼ぶと、皆に言った。
「皆も見たとおり、今回の勝利はこのグリムのお陰だ。 グリムはこの村の勇者だ!」 戦士達から一斉に歓声が上がった。 戦士達の歓声を聞いて、村長の邸に避難していた村人達も一斉に外に出てきた。 そして村人達は、多くの魔獣が倒れている姿を見て大いに驚いた。 魔獣が再び襲ってくることは無いだろうと思われたが、念のため夜明けまで村に周辺に見張りが置かれ、村人達は村長の邸でその夜は過ごすことになった。 ムスガルの群れがその後、クオン村を襲うことは無かった。




