3-7 魔獣襲来(4)
グリムの銀髪が逆立った。 グリムは考えるより先に体が動いた。 屋根の上に立つと弓を構え、二本の矢を一度につがえて放った。 その矢の一本はエリオラを捕らえていた魔獣の額に刺さり、魔獣はエリオラの手を離すと後ろに倒れた。 もう一本の矢は、ペックの襟をつかんでいた魔獣の胸に刺さった。 そしてグリムは弓を投げ捨てると、剣を握って屋根から空中に飛び出した。 それは飛び降りたと言うより、飛んだという感じだった。 一気にムスガル達の前に降り立つと、剣を振り上げエリオラ達の近くの魔獣に斬りかかった。 それは斬ると言うより叩きつけるような乱暴な動きだったが、魔獣は肩から斜めに斬られ、膝を落とした。
「今だ、畜舎まで走るんだ!」 グリムがエリオラに叫んだ。 エリオラは頷くと、ペックの手を取って走り出した。 そばの魔獣が槍でエリオラを突こうとしたが、グリムがそれを見逃さず、剣で槍の柄をたたき切った。 そしてその返す剣でその魔獣の首を刎ねた。 エリオラとペックは畜舎まで走ると、戦士達に保護された。
魔獣達は騒然となった。 グリムを囲むようにすると、一斉に襲いかかった。
「ウオーーッ!」 グリムは叫ぶと闇雲に近づく魔獣を斬りまくった。 剣を修練した者が見たら、グリムの剣は顔をしかめるようなものだったろう。 剣技も何もあったものではなく、本能のまま振り回しているだけと言っても過言では無かった。 しかしその動きとスピードは驚異的だった。 剣の扱いはどう見ても素人のそれだったが、敵との間の取り方、攻撃のかわし方、急所の攻め方などは戦い慣れした戦士のそれだった。 ほんの数分の間に20体近くの魔獣が倒された。 さすがに魔獣達はグリムのその強さに怯み、遠巻きにして攻撃をするのをためらった。 屋根の上の戦士達はグリムを援護したかったが、その目まぐるしい動きに、矢を射込むことがためらわれた。 ただその驚きの戦いを見守ることしか出来なかった。
「フーッ」 グリムは深く息を吐いた。 全身は返り血を浴びて赤く染まり、瞳は金色に輝いていた。 グリムが魔獣を睨むと、その魔獣は怯えて後ろに下がった。 戦いが膠着すると、そこにボスが魔獣達をかき分け現れた。
グリムもその大きさに驚いた。 ボスの身長は5メートル以上、長い緑の毛に覆われた腕や脚は巨木の幹のような太さだった。 ボスは赤い三ツ目でグリムを品定めするように見つめた。 ボスの手には巨大な棍棒が握られていた。
「ウガーーッ!」 ボスは吼えながら棍棒を振り上げ、グリムに対して思いっきり叩きつけた。 グリムがいた地面には大きな衝撃と共に大きな穴が空き、そこにあった土が爆発したように四方に飛び散った。 しかしそこにはグリムはいなかった。 グリムはすでにボスの頭上にいた。 グリムは剣を振りかぶりボスに斬りかかろうとしたが、ボスはすぐにグリムの意図に気付くと素早く棍棒をしたから振り上げて、グリムを打ち払おうとした。 グリムは空中で体をひねり迫り来る棍棒を避けながら、剣を腕に斬り込んだ。 しかし空中で力が入らないことと、針金のような毛に守られ、傷一つ付けることが出来なかった。 グリムは空中で回転し地面に着地した。
「グフッ、グフッ」 ボスは“なかなかやるではないか”とでも言っているかのように笑った。 口から下あごの長い牙が、はみ出して見えた。
(やはり強いな。 剣が通じない。 ならばどうするか) グリムとボスはまた睨み合った。