表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/157

16-4 その後

 慌ただしく、イベントが続いた。 前王の葬儀、ユーゴの即位式、アルクオンとの停戦などだ。 停戦については、カーセリアルはベルリアンに三千の兵を残して撤退すること、ベルリアンから300キロに停戦ラインを設け、越境しないことが取り決められた。 それから、IDを持たない人々全てにIDを発行し、平等の権利を与えた。


 戦争が無くなり、ユーゴの国王としての生活も落ち着いてきた頃、グレイブが山に帰ると言いだした。


「ここの生活は退屈だし、私には窮屈だ。 向こうでのんびりしながら、アレを監視しようと思う。 もし何かあれば呼んでくれ。 まあ、ここにはアイツがいるから大丈夫だろうがな」 グレイブはセシールに腹をモフられているシックルにアゴをしゃくった。

「そうか、今までありがとう。 元気で暮らしてくれ」


 グレイブは庭に出て大きく伸びをすると、黒い翼を広げて空に飛び立っていった。


 一年後、ユーゴはカエンと正式に結婚した。 結婚が遅れたのは、前王の喪中であったことと、国王としてやらねばならない事が多かったためだ。


 ユーゴの執務室

 セルタスが来ていた。 相談したいことがあると言うことで、ユーゴが呼んでいたのだった。


「陛下、相談とはどのような事でしょうか?」

「王制を廃止しようと思うのだ」

「何ですと!」

「急に思いついた訳ではない。 私が即位した時から考えていた事だ」

「何故でしょう」

「一人の人間に権力が集中するのは、良くないと思うのだ。 私は常に自分の判断が本当に正しいのかと思う。 統治者が愚かな判断をすれば、不幸になるのは国民だ」

「なるほど。 それで陛下は王制を廃止して、どうしたいとお考えなのでしょうか」

「国民の中から選挙で議員を選び、その議会によって法律を定め、その代表者が政治を行なう」

「議会制民主主義ですね」

「今は貴族による議会はあるが、それでは民意が反映しない。 昔の地球では民主主義の国があったと本に書いてあった」

「良くご存知ですね。 ですが、民主主義が必ずしも良いとは限らないでしょう。 人はまず自分の幸せしか考えないものです。 皆が自分勝手なことを言いだしたら、国はまとまらないでしょう。 それに十人いれば十通りの考え方があります。 物事を多数決で決めても、必ず不利益を被る人が出てきて、その人達は不平不満を言うでしょう。 結局のところ統治者は全ての国民を満足させる事など出来ないのです。 民主主義を行なっていた地球も結局は滅んだのですからね」

「それは分かるが、出来るだけ多くの国民が幸せになるように心を砕くのが統治者の務めであろう。 なのに、私には荷が重すぎる」

「陛下はもしかしたら、世論を気にされておられるのですか?」

「あっ、いやそう言う訳では・・・」 ユーゴの国王としての国民の評価は二分していた。 厭戦派からは、戦争を終結させたと良く評価されていたが、ベルリアンで一旗揚げようとしていた連中からは、もう少しでアルクオンを屈服させることが出来たのを、何も得られずに撤退させた弱腰王と陰口されていたのだ。 また貴族などのいわゆる上流階級からは、出自が怪しいとか、水商売の下賤な女を王妃にした前代未聞の王などと言われていた。

「こう申し上げては僭越ですが、陛下は決して歴代の王に勝るとも劣らぬお方だと、私は考えております。 もっと自信をお持ちください」

「そうではない。 私のことは何と言われようと良いのだ。 なにせ“死神”とまで言われていたのだから。 王位にも執着は無いし。 私が気にしているのは、セシールの事だ。 こんな重責をあの子には負わせたくない。 私の代で終わらせてしまいたいのだ」

「それは、セシール様がまだ小さいから、そう思われるのです。 私が見る限りでは、あの方は小さいながら聡明ですし、なかなか度胸もございます。 私は立派な女王におなりになられると思いますが」

「ふう、それでは私の考えは、認められないと?」

「国民の選挙による議会を作り、民意を吸い上げられるのは良いでしょう。 しかし最終的には陛下にご決裁を頂く形は残しておくべきかと」

「分かったよ」 ユーゴはため息をついた。

「陛下はまじめな性格ゆえ、重く考えすぎなのです。 その決断が正しいのかどうかなど、後世の歴史家が判断するものです。 陛下の背負われる責任の半分は私に負わせてください」

「ありがとう」

「安堵しました。 陛下にはまだまだこれからご活躍いただかなければなりません。 逃がしませんぞ」 セルタスは笑った。

「ふ、自分が大変になるから、認めなかったのだな」

「はは、バレましたか」 二人は声を上げて笑った。



 完


おかげさまで何とか最後まで書ききることが出来ました。 拙い文章に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ