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16-2 国王

 グリムは翌日、現国王ユリウス王をセルタスと見舞った。 ユリウス王は50歳前のはずだったが、ベッドに横たわった男は80を越えた老人のようだった。 グリム達がベッドの横に座ると、男は静かに目を開けてグリムを見た。


「だ、だれだ・・・・」 ユリウス王はかすれた声で、苦しそうに言った。

「ユーゴと申します」 それを聞いて、王は目を見開いた。

「そうか・・、確かに兄に似ている」

「・・・」

「すまない。 わたしが、兄の遺言を聞いていれば・・・。 よく無事で・・・、クラウスが良からぬ事を・・・、考えていると聞いた。 クラウスは・・・、どうした」

「亡くなりました」ユーゴは一瞬ためらいながらも、言った。

「そ、そうか・・・・。 やむを得ん」

「・・・・」

「ゆ、ユーゴ、この国を・・・、たのむ。 セスタス・・・」

「はい、陛下」

「ユーゴを・・・、頼む。 支えて・・・やってくれ」

「かしこまりました」

「ユーゴ・・・、顔をよく・・・見せて・・くれ」 ユリウス王は右手を出した。 そして枯れ枝のような手で、ユーゴの顔を触った。

「あ、ありがとう・・・。 もう・・思い残すことは・・ない」 そう言うとまた眠り始めた。


 その日の夜、ユーゴのもとに王が崩御されたと連絡が入った。 それからユーゴは多忙を極めた。 即位はまだだとは言え、実質国王になったと言えるからである。 葬儀やら即位やら、戦争の処理やら実務的な指示はセルタスがやってくれるとは言え、諸々の決裁がユーゴのもとに集まって来るからである。 ユーゴはセルタスと今後の進め方について協議した。 葬儀や即位の件、そして組閣についてはセルタスに任せることにした。 何の知識もないユーゴが口を出せることが無かったからである。 ユーゴにとって最優先事項は、戦争の終結であった。 ユーゴは現在、暫定的に国防大臣を兼務しているセルタスに、ビッグリーフに展開している全軍をベルリアンまで撤退させるように命じた。 セルタスは一方的な撤退は、ベルリアンの安全を脅かすのではと懸念を示したが、ユーゴはそれは大丈夫だと押し切った。 その後、リオンと連絡をとると、女王に停戦と和平交渉を進めたい旨を伝えてくれるように頼んだ。


 翌日の朝食のテーブル

 王宮の広い食堂の大きなテーブルに座っていたのは、ユーゴとセシールのみだった。 セシールは皿の上のオムレツをフォークでつつきながら、一向に食べようとしなかった。


「どうした? 遊んでいないで食べなさい」

「食べたくない。 グリム、お家に帰りたい」

「お家って、もうここがセシールのお家だよ」

「違うよ、ここにはカエンがいないもの。 セシールのお家はあの自動車だよ」

「・・・・・」

「なぜ、カエンはここにいないの? あたしここは嫌い」 ユーゴは何も言えなかった。 ユーゴ自身も王宮の生活はなじまなかった。 いくら大きな部屋で豪華な調度品に囲まれ、多くの人間にかしずかれて生活しても、心の安息は得られなかったのだった。

「セシール、心配するな。 カエンはここに来るから、もう少し待ってくれ」

「グリムがそう言うなら、がまんする」 そう言うと、オムレツを口に入れた。


 ユーゴは仕事の合間に、カエンに電話をかけた。 しかしカエンが出ることはなかった。 ユーゴはため息を一つつくと、別な所へ電話をかけた。


 クレイ・ローガンは鳴っている電話の番号を見つめた。 見知らぬ番号だった。 訝しみながらも、電話を取った。

「クレイだ」

「兄弟、元気かい?」 クレイは驚いた。

「兄弟? いや国王様がこんな所へ電話してきたらまずいんじゃないのか」

「何故だ」

「そりゃあ、俺等みたいな者と関わっていると、マスコミが黒い交際とか何とか、あること無いこと書いてしまったりするだろう」

「知るか! “死神”と兄弟であることを厭わないのだから、今更国王と兄弟であっても驚かないだろう」

「はは、違いねえ。 それで、今回は何だ?」

「実は頼みがある。 カエンを探して欲しい。 俺達が王宮へ移ったときに、カエンは姿を消した。 電話にも出ない」 それを聞いて、クレイは少し考えていた。

「なら、そっとしてやる方がいいんじゃないか。 俺にはカエンの気持ちが分かるような気がする」

「ダメだ! 俺達にはカエンが必要だ。 特にセシールには。 セシールには母親が必要だ。 あの子の母親になれるのはカエンしかいない」

「そう言うことなら、分かった。 お前の見込みでは、カエンはこっちにいると考えているんだな」

「恐らく。 秘かに探してくれ。 カエンに感づかれると、また姿をくらます可能性が高い」

「分かった」

「恩に着る」


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