16-1 王子
グリム達が戦いから戻ったのは、明け方だった。 モーリスのセーフハウスではキランやリオンが出迎えてくれた。 傷の手当てを済ませると、グリムは仮眠を取った。
その日の夕方、セルタスが訪れた。
「ご無事で安心いたしました」
「何とか、うまく行きました。 発射されたミサイルはどうなりました?」
「東の海に落下して爆発しました。 今、軍に影響を調べさせておりますが、恐らく環境への影響は限定的になるだろうとのことです」
「そうですか、それは良かった」
「ところでユーゴ様、出来るだけ速やかに王宮へお移りいただきたいのです」
「そ、それは、難しいですね・・・」 グリムは困った顔をした。
「何故ですか。 あなた様が王子として認定されることは、もう公式に発表されております。 昨夜の戦いでクラウス王子が亡くなられた事も聞いております。 もう次の国王はユーゴ様しかおられません。 マスコミも国民もお姿を現わされるのを待ち望んでおります」
「待ってください。 良くお考えください、本当に私が王になれると思っておられるのですか」
「どう言う事でしょう?」
「あなたも私の経歴をご存知でしょう。 私は戦いしか能のない男です。 国を治めることなど無理です」
「そうでしょうか。 あなた様は軍の中でも特に優秀でした。 決して武力だけの人物とは思えません。 それにユーゴ様に直接、政治案件を捌いていただくわけではありません。 そのために私や他の閣僚達がおるのです。 大丈夫です、私がお支えいたします。 それにあなた様は我が国の英雄ではございませんか。 極秘事項のため、国民に戦歴を発表することは出来ませんが、国のために戦われたことは、国民は大いに支持するでしょう」
「しかし、・・・・・」 グリムはためらった。
「何でもおっしゃってください」
「私は英雄などではありません。 この戦争そのものが誤りだった。 国から教えられたことが、正しいと信じて戦ったが、それが嘘で多くの人々を死なせてしまった。 それは敵も味方もです。 私はこの国の兵士も死なせています。 私は裏切り者なのです」
「それは・・・・」セルタスは困惑していた。 隅で聞いていたカエンは我慢できずに言った。
「あなたは悪くないわ。 あなたは命令で戦ったのでしょう。 先の戦いでアルクオン側で戦ったのだって、女王に核兵器を使わせないためでしょう。 もしあなたがそれをしなかったら、核攻撃の応酬でどちらも何百万人という死者が出たはずよ」
「何ですと!」
「それに、あなたは自分が“死神”とあだ名され、そのせいで自分が多くの人の死を呼ぶと気にしているのでしょうけど、それは違うわ。 逆にあなたが多くの人々の死を防いだのよ。 あなたは死神なんかじゃ無いわ」
「カエン・・・」
「詳細は分かりませんが、彼女の言うことが正しければ、この国の政治が悪かったと言うことでしょう。 軍の暴走は、私にも責任があります。 それは今からでも改めてゆかなければなりません。 そしてそれを出来るのも、あなた様です」
「・・・・・・」
「どうかお願いします。 王におなりください」
「戦争を終わらせなければならない」 グリムはポツリと言った。
「そうよ、そして女王と交渉出来るのは、あなただけよ」
「わかりました」
グリムとセシールはその日のうちに、王宮へ入った。 シックルとグレイブも一緒だった。 カエンは色々片付ける事があると言って、一緒に行かなかった。 セシールは「なんでー! 絶対に後で来てよ」とふくれっ面したが、渋々同意した。




