15-20 対決(6)
「待って!」命令する女の声が聞こえた。 男達は銃を構えたまま、身じろぎもしなかった。 兵の後ろから、同じ戦闘服を着た女が入って来た。
「撃ってはダメよ! その人は次の国王様よ」 そしてヘルメットのフェイスシールドを上げた。 そこにいたのは見知った顔だった。
「クレアか・・・」
「ユーゴ、また会ったわね。 私を殺す?」 クレアは微笑んだ。
「冗談を言っている場合か。 だが助かった」 グリムは拳銃を下ろした。
「いえいえ、助かったのはこちらの方よ。 死神に睨まれたら生きてはいられないわ」クレアは兵の腕に手をかけて銃を下ろさせた。
「クラウスを追っている。 見なかったか?」
「それなら、他の者が少女を抱えて上に上って行くのを見たと言っていたわ」
「えっ、小型の戦闘艇で脱出を図っているのでは無いのか?」
「それはもう我々が押さえているから無理ね」
「分かった、ありがとう」
「待って! あなたはもう重要人物なのだから、無茶はしないで。 後は我々に任せて!」
「そうは行かない。 これだけは自分で決着をつける」
「分かりました。 ではこちらの制圧はお任せください」
グリムはクレア達から別れると、クラウスが上って行ったという非常階段を上って行った。 そして緊急脱出用のハッチを開けると、宇宙船の上に出た。 ひんやりとする微風が頬をなでる中、闇の中に立っている男が目に入った。 そしてその隣にはセシールが立っていた。
「やっと来たか。 決着をつけよう。 お前が勝つか、私が勝つか」
「セシールを離せ!」
「良いだろう、もうこんなガキはどうでも良い」 クラウスはセシールから手を離すと、もう一方の手に握っていた何かを口に入れると、ガリガリと噛み砕いて呑み込んだ。 セシールはその間にグリムの方へ走ってきた。 グリムはセシールを抱きかかえた。
「良かった。 怪我はないか?」
「うん、グリムが必ず来てくれると信じていたよ」
「もう少しで、全て終わる。 危ないからさがっているんだ」 グリムはセシールを下ろすと、諭すように言った。
グリムがセシールを遠ざけて、クラウスに向うとその姿に驚いた。 上半身は筋肉の塊のようになり、服は破れて上半身がむき出しになっていた。 顔も端正だった顔立ちが、ごつい鬼のような顔になっていた。
「クレアル社の薬を飲んだのか? バカなことを・・・」
「行くぞ!」 クラウスは見かけからは信じられないほどのスピードで距離を詰めると、グリムの顔面に拳を叩き込んだ。 グリムは反射的に首を回して攻撃を殺したが、完全には防ぎきれず後方に吹き飛ばされた。 クラウスはグリムに反撃の余裕を与えず攻撃をたたみかけた。 グリムは宇宙船の外壁上を転がりながら、攻撃を避けた。 クラウスの拳は、ミサイル攻撃にも耐えられるように設計された外壁を砕いていった。
「どうだ、私を机に座っているだけの男だと見くびるなよ」 クラウスの攻撃は更に激しくなった。 グリムも応戦するが、足場が悪い上に滑りやすく、拳に力が入らなかった。
グリムは腹にクラウスの拳を受けて、10メートル以上吹き飛ばされた。
(クッ、あばらを何本かやられたか・・・) グリムはセシールの方を見た。 セシールは震えながら、グリムの方を見ていた。
「まだだ、お前には何度も煮え湯を飲まされた。 そう簡単には殺さないぞ」 クラウスは燃えるような赤い目を輝かせて、グリムに近づいて来た。 腕には鎌の様な物が生えていた。
「お前の腹を引き裂いてはらわたを引きずり出して、もがき苦しんでいるところで、あの娘の首をかき切ってやる」 クラウスは笑いながら腕の鎌を振り上げた。
「負けないで、お父さん!」 セシールが泣きながら叫んだ。




