15-14 もう一つの救出作戦(3)
グリムは強化プラスチック製と思われる箱を叩いた。 箱はビクともしなかった。 グリムは拳銃で箱を二発、続けざまに撃った。 しかし、箱には傷一つ付かなかった。
「無駄だ。 それは防弾ガラスよりも強い。 お前がいくら撃っても破壊出来ない」 アレンは笑った。 そして更に別のボタンを押した。 すると箱の中にガスが噴きだした。
「そのガスは猛毒だ、すぐに楽になれる」 セシールもリリアも為す術も無く立っていた。
(まずい、恐らく数分で動けなくなるだろう)
「グリム!」 セシールはグリムに向って走ろうとした。 アレンはセシールの首に左腕をかけて制した。 セシールはアレンの腕に噛みついた。
「痛っ。 何しやがる、このガキ!」 アレンは銃を握った右手でセシールの頬を殴った。 セシールは2メートルほど飛ばされて倒れた。
「セシール!」 リリアが駆け寄り助け起こした。
グリムの怒りは、まさに怒髪天となった。
「アレン、許さない」 グリムは右の拳にアクロの力を載せると、箱を殴った。 “ビキビキ”という音がしたかと思うと、透明な箱に無数のヒビが入り、次の瞬間崩れ落ちた。
「何だと、有り得ない・・・」 アレンはグリムに向って続けて発砲した。 グリムは、胸に3発の銃弾を受けて床に倒れた。
「脅かしやがる、バケモノめ!」 そう言うとアレンはグリムに近づき、止めをさそうとした。 その時、部屋にクラウスが現れた。
「ユーゴを殺したのか?」 床に倒れたグリムを見て、クラウスが言った。
「もう虫の息です」
「そうか、この邸に警察がやって来る。 エンゲルが寝返った」
「どうしますか?」
「アレのところへ行く。 アレを押さえれば、まだ逆転できる」
「承知しました。 では私がヘリを操縦いたします」 アレンには何の事かすぐに理解した。 アレンがその場を去る前に、グリムの頭に銃口を向けた。
「ニギャーオ」 シックルが素早い動きで、アレンの銃を握った右手に噛みついた。 その衝撃で銃口がブレ、銃弾はグリムの背中に当った。
「クッ、このクソ猫!」 “シャーッ!と威嚇するシックルの目は金色に輝いていた。 アレンはシックルを撃とうと銃口を向けた。
「時間がない、そんな猫は放っておけ」
「はい」 アレンは銃を下ろすとクラウスの方へ歩き出した。
「そのガキは連れて来い。 まだ使い道がある」
アレンはセシールを抱いていたリリアを蹴って引きはがすと、気を失ったセシールを担いで部屋を出ていった。 シックルはセシールを追って部屋を駆けだした。
リリアはグリムに駆け寄ると、グリムを仰向けにした。
(起きて、グリム。 あなたしかセシールを助けられない) だが胸の3発の銃創を見て絶望した。
「セ、セシール・・・・」 グリムは意識を取り戻した。
「大丈夫?」
「セシールは?」
「クラウス様とアレンが連れていってしまったわ」
「くそっ、追わなければ・・・」 グリムは立ち上がろうとした。
「無理よ、生きている方が不思議なくらいよ」
「大丈夫だ、これくらいでは死なない」 リリアは驚いた。 瀕死のはずなのに、確かに出血が止まっていたのだった。
邸の外から、ヘリのローターの音が聞こえてきた。 グリムはよろめきながらも、立ち上がるとベランダまで出てきた。 ちょうどヘリが浮かび上がり、機体を傾かせながら北の空へ向うと速度を上げた。 ヘリにはクラウスとアレン、そしてセシールの顔が見えた。 そしてシックルも乗り込んでいた。
「クソッ、失敗だ! また助けられなかった」 グリムはベランダのフレームを叩いた。
「グレイブ、撤退だ。 北側に来てくれ」 グリムはテレパシーで呼びかけた。
「分かった」 しばらくするとグレイブがベランダの前に舞い降りた。 背中にはキラン達が乗っていた。 グリムは力を振り絞って、グレイブの背中に跳んだ。
「セシールは?」キランが聞いた。
「ヘリで連れ去られた。 作戦は失敗だ」 グリムはそこで倒れた。




