15-13 追い詰められるクラウス
テレビ局の周りには、サイレンを鳴らしながら多くのパトカーが集まって来た。 セルタスを逮捕するためだった。 その時だ、200人ほどの武装した兵士が、局の周りを取り囲んだ。
「一人の警官も入れるな!」トニーは兵達に命じた。 それを見て警官達は困惑した。 警官と兵士の睨み会いが続いた。 この様子はライブで放送された。 ネット上ではセルタス支持者とクラウス王子支持者が、激しく論戦を行い沸騰していた。 多くの閣僚が、SNSでセルタスの支持を表明した。 しかしクラウスは諦めず、王都に駐屯する全部隊に緊急出動を命じた。 あくまでセルタスは国民をたぶらかし、内乱を引き起こそうとしている反逆者であるとして、反乱分子の鎮圧と王都の治安を守るためだと主張した。
一時間もしないうちに、3千の鎮圧部隊が到着しテレビ局を囲んだ。 それを機に警察は引き下がった。
「今すぐ武器を捨てて、投降するんだ。 このままではお前達は反乱軍だぞ」 鎮圧部隊の指揮官がマイクに怒鳴った。 今度はトニーの部下達が動揺しだした。
「反乱軍はお前達だぞ、グレッグ」 いつの間にかキールが来ていた。
「キールか、お前はクラウス王子の犬だったくせに、ここに来て飼い主の手を噛むのか」 グレッグと呼ばれた指揮官はキールを蔑むような目で見た。
「私は目を覚ましたのだ。 本来仕えるべき人に仕える。 お前こそ、クラウス王子に正義が無いことを分かっているはずだ。 お前は反乱軍の指揮官として汚名を残すことになるぞ」 そのやりとりも放送されていた。
「その通りだ」 兵士達の前にセルタスが現れた。
「大臣、危険です。 お下がりください」
「大丈夫だ。 兵士諸君、聞きたまえ。 クラウス王子は大臣を解任された。 君たちに対する指揮権はもう無い。 クラウスの命に従う者は反逆者となる。 よく考えるのだ」 今度は鎮圧軍に動揺が広がった。
セルタスが更に説得しようと、一歩踏み出した時、キールは鎮圧軍の中にセルタスを狙っている兵がいることに気付いた。
「危ない!」 キールがセルタスに覆い被さるように押し倒すのと、銃声が同時だった。 銃弾はキールの背中に当った。 キールの背中に赤いシミが広がった。
「キール、しっかりしろ」トニーが駆け寄った。
「大臣を中へ! それと発砲するな!」トニーは冷静に命令した。 もしここで、つられて発砲すれば、ここは凄惨な修羅場と化すことを分かっていたからだ。 テレビカメラは今の事件も流し続けた。 キールも中に運び込まれて、応急手当を受けた。
この発砲事件が、膠着事態を動かした。 テレビを見ていた一般市民が続々とテレビ局に集まりだしたのだ。 口々に叫んでいたのは、「軍隊は帰れ!」「セルタスを守れ!」だった。 その数はたちまち膨れあがり、数万人になった。 それを見た鎮圧軍の司令官は、分が悪いと判断した。
「我々はこれより、セルタス大臣の指揮下に入る」 そう宣言すると、セルタスの前で指揮に従う事を誓った。 これによって、セルタスは軍を掌握した。
慌てたのは、エンゲルだった。 他の閣僚達がセルタス支持にまわる中、自分がこのままでは更迭されるかも知れないと考えた。 更迭で済めば良いが、自分が逮捕される可能性さえあると考えた。 そしてたどり着いた結論は、次のようなものだった。
「クラウス王子を逮捕するのだ」 そう言うと、警察をクラウスの邸に向わせた。
クラウスは激怒した。 そしてある決意をした。




