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15-9 急展開

 グリムは車を運転しながら考えていた。

(今は昼過ぎだ。 普通に考えたら真っ昼間に救出作戦など有り得ない。 だが夜間に決行するのは、相手の不意を突くためだ。 しかし現状ではそれは望めない。 かえって時を空ければ、警備は更に強固になるだろうし、もしかしたらセシールを別の場所に移すかもしれない。 今やるしかない) グリムは車を急いだ。


 セルタス達の車

 リオンがセルタスの手錠を外している時、セルタスが聞いた。

「君たちは誰だ? ユーゴ様の仲間なのか?」

「そうです。 ところでこれからどうされますか? とりあえず我等の隠れ家にご案内しようと考えていますが」とモーリス。

「いや、テレビ局に行く。 先手を打って国民に真実を発表する」

「何ですって!」

「このままだと、すぐに追い詰められて罪を着せられたまま殺される。 逆転できるとすれば、その一点だ」

「分かりました」

「ただし、その前に寄って欲しいところがある」

「どこですか?」

「教会だ。 預けた物を受け取りにいく」


 クラウスの邸

 クラウスは、今日はあえて軍の庁舎には行かず邸に留まっていた。 アレンは万一のことを考えて、邸にはいない方が良いと進言したのだったが聞かなかった。 クラウスは、もしユーゴが邸を襲ってセシールを奪還しようとするならば、直接ユーゴが死ぬところを見たいと思っていたのだった。


 突然クラウスの電話が鳴った。 クラウスが出ると、男が慌てた様子で話し出した。

「クラウス様、一大事です。 セルタスが逃走しました」 声の主は、警察も統括する大臣のエンゲルだった。

「何だと! それでどうした?」

「現在逃走中で、全警察を挙げて捜索中です」

「分かった。 絶対に逃がすな。 射殺しても構わない」

「承知いたしました」

「キールは何をやっているのだ」 クラウスは、エンゲルとの電話を切るとすぐにキールに電話をかけた。 しかしキールは出なかった。

(裏切ったか・・)


 キールが車を運転中に、クラウスから電話がかかってきた。 しかしキールは出なかった。 用件は分かっていたからだ。 それからしばらくして別の電話がかかってきた。 キールは運転しながら電話に出た。 相手は今日グリム達を制圧する名目で出動させた部隊の隊長であるトニー・クラーセンだった。


「バウラー殿、トニーです。 どうやら彼らはテレビ局に向うようです」

「テレビ局?」キールは少し考えたが、すぐにセルタスの意図を理解した。

「セルタスは、国王の意志を国民に公表するつもりだ。 部隊をテレビ局に向けてくれ。 セルタスがテレビで話し始めたら、すぐに警察や他の部隊が阻止するために集まるだろう。 私もそちらに向う」

「分かりました」

 トニーは軍部の中でもクラウス王子のやり方に疑問を持っていた。 それでキールの話しを聞いた時に、キールの話しに乗ったのである。 しかしこれはキールにしろトニーにしろ、命令違反である。 もしセルタスが負ける様なことがあれば、反逆罪で処罰されるだろう。 もう後戻りはできなかった。


 クラウスの邸近くの公園

 グリム達は、カエンと合流した。 カエンは公園の木の上から、邸に出入りする車や人を観察していたのだった。


「奴ら、今日私達が襲うということを分かっているわ。 中は十分覗くことはできないけれど、見える範囲だけでも多くの警備員達が銃を持って警戒している」

「どうしますか?」とキラン。

「やる。 今しかない」

「では作戦は打ち合わせ通りと言うことで良いですね」

「ええ。 すみません、個人的な事なのに危険な役目をお願いして・・・」

「何の、あなたのお役に立てるのであれば、どうということはありません」

「我等も同じです」 二人のキランの部下も応えた。

「私も行くわ」とカエン。

「ダメだ! カエンはここで、脱出したらすぐ逃走できるように、スタンバイしていてくれ」

「分かったわ・・・」 カエンは渋々同意した。

 グリム達は武器を取り、準備を始めた。 グレイブも外に出て背中を伸ばすと、大きなあくびをした。

「グレイブ、頼むぞ。 お前がいないと成り立たない作戦だ」 グリムはそう言うと、グレイブの頭をなでた。


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