15-6 救出作戦(3)
翌日、再び作戦の詰めが行なわれた。
「グリム、スナイパーの件はどうなった?」リオンが聞いた。
「昔の知り合いが協力してくれることになった。 彼が護送車を止めてくれる」
「昔の知り合いって?」とカエン。
「キールだ・・・」
「何ですって! あなたを殺そうとした奴じゃない」
「そんな奴、信用できるのか? どこまで話した?」とモーリス。
「その男のことは良く知っている、大丈夫だ。 みんなの心配もな。 もし裏切った場合、俺が責任をとる」
「どう責任をとると言うのだ? 仲間が死に、作戦が失敗してからどう責任をとるつもりだ?」 周りの雰囲気が悪くなった。
「一度殺そうとしたからといって、その男がずっと敵とは限らない。 私はグリム殿を信じる」 キランが静かに言った。
「そうね」とカエン。 これで何とかその場は収まったが、気まずい空気は残った。
クラウスの邸
「ブラウン、今度の裁判で間違い無く、セルタスを有罪に出来るのだろうな。 もう悠長にやっている時間はないのだ」 クラウスはイラつきながら電話の相手に言った。
「大丈夫です、クラウス様。 今回で結審させます。 セルタスの有罪は揺るぎません」 法務大臣のブラウンは答えた。
「必ずだぞ。 もし違えたら許さんぞ」 そう言うと電話を切った。
「少し落ち着かれたらどうですか」アレンがカップのお茶を飲みながら言った。
「そうも言ってはいられなくなってきた。 世論が私に批判的になっている」
これには理由があった。 クラウスが積極的に進めてきたアルクオン侵攻も先の敗戦で大きく後退することになり、国内世論が厭戦に大きく傾いてきていた。 その上ネット上では、「クラウス王子が兵士に対して人体実験をしている」とか「前王には非公認の王子がいて、現国王はその者に王位を継がせたいと考えている。 クラウス王子はそれを阻止するために宰相を逮捕した」などの噂が流れていた。 もちろんこれはカレンが流していたものだった。 クラウスは火消しに躍起になったが、ネットの検索制限をしても完全には消すことは出来なかった。 更にそんなことをすればするほど、国民にはそれが事実だと思われ逆効果となった。 それでクラウスは苛立っていたのである。
「それとユーゴが現れた。 今度はセルタスを奪還するつもりらしい」 クラウスは忌々しそうに言った。
「なんと、それでは明後日の裁判所への移送中を狙おうとしているのですか?」とアレン。
「そうらしい」
「どこから、情報を?」
「キールだ。 ユーゴが直接会いに来て、協力を求めたとのことだ。 全くユーゴはバカなのか、底抜けのお人好しなのか。 キールが私に連絡するとは思っていないのか?」
「本当にそうでしょうか」
「どう言うことだ」
「あえて情報が、あなたに流れると分かった上での行動ではないかと」
「ならば、これは罠だと言うのか?」
「そこまでは言い切れません。 しかし、ユーゴは頭の良い男です。 本当の狙いに気付かれないようにするために、あえて利用したと言うことも十分あり得ます」
「本当の狙い・・・・。 娘の奪還か? それなら納得がいく」
「そうですね。 セルタスの奪還と思わせておいて、セシール救出のためこの邸に侵入を試みるかも知れません」
「なるほど、だが思い通りにはさせん」
「では、そのつもりで備えさせましょう」
「ああ、どちらにしても飛んで火に入る夏の虫だ」




