15-5 救出作戦(2)
三日後、二つの作戦についての検討会議が行なわれた。
「まずセシールの救出ですが、クラウス王子の邸への侵入方法については、どうですか?」リオンが聞いた。
「まあ案としては、ほぼまとまりつつあります。 侵入は私とグレイブでやります」
「そんな無茶だ!」とキラン。
「レッドアイズも待ち構えているんですよ」とリオン。
「ピンポイントで急襲し、セシールを奪取して離脱するつもりです。 まあ細部はもう少し練る必要はありますが・・・」
「セルタスの方はどうですか?」
「警察の収監所は警備が厳重だ。 この人数で襲うのは無理だ」とモーリス。
「近々、裁判が開かれると聞いているわ」とカエン。
「その移送の途中を襲うのか?」とモーリス。
「そうね、やるにはそこしかないわ」
「なるほど、だが事前に移送ルートが分からないと準備が出来ないぞ」
「護送チームは幾つかルートを考えて、当日になるまでルートは明かさないだろう。 こちらは幾つかルートを想定し、そのルートごとに待ち伏せポイントを決める必要がある」グリムが言った。
「なるほど、裁判日はいつだ?」
「9月5日、6日後ね」
「ではそれで襲撃プランを練ろう」とモーリス。
「あまり時間はないぞ」とキラン。
「それと、そうなるとセシールの救出作戦の決行日が問題ですね」とモーリス。
「なぜ?」とカエン。
「セシールの救出が先だと、我等の活動が敵にバレて、セルタス奪還が難しくなる。 逆もまたしかりだ」
「じゃあ、同時に行なわなければいけないってこと?」
「そうだな、そして同時に成功させる必要がある。 セルタスの奪還が成功しても、セシールの救出が失敗、あるいはグリムに何かあって死亡でもしたら、全てが水の泡だ」
「どんどんハードルが上がっていないですか」とリオン。
「セルタスの奪還作戦を成功させるには、足りないものがある」グリムが言った。
「何ですか?」とキラン。
「スナイパーだ。 しかも一流の腕を持つ者が要る」
「私は弓が得意です」 キランの部下のトーラが言った。
「弓では距離が限定されるし、難しいだろう」
「どうするのですか?」
「少し考えさせてくれ」とグリム。
グリムは翌日の夜、ある人物を訪ねていた。
「本当に生きていたのか・・・・」 キールは驚いた顔で言った。
「幽霊ではないぞ」 銃口をキールに向けながら、グリムが言った。
「今度こそ私を殺しに来たのか。 いいだろう、撃ちなさい。 私は後悔していたのだ。 息子のように思っていたお前を、自分の手で殺さねばならなかったことを・・・」 そう言うと、キールはイスに座った。 グリムはイスには座らなかったが、キールの側に近づいた。 銃口は下げなかった。
「あんたに復讐するために、ここに来たのでは無い」
「ならば、目的は何だ?」
「あんたの力を借りにきた」そう言うと、グリムは銃を下ろした。
「何だって、私はお前を殺そうとしたのだぞ!」
「あんたは命令に従っただけだ。 軍人にとって命令は絶対だ。 違うか?」
「その通りだ。 私に選択肢はなかった」
「だが、思い出して欲しい。 我々は国に忠誠を誓ったのであって、クラウスに忠誠を誓ったのでは無いはずだ」
「何が言いたい。 私にクラウス王子を裏切って、セルタス派につけと言うのか?」
「このまま戦争を続けても、カーセリアルにとってもアルクオンにとっても不幸な結末しかない。 それはあんたが一番良く分かっているはずだ。 軍は国を守るためにあるはずだ。 このままクラウスのやり方では、国が滅ぶぞ」
「・・・・・・」
「俺を殺そうとしたことは、もう良い。 力を貸してくれ!」
「何をしようとしている。 私に何をさせようと言うのだ?」
「セルタスを奪還する」
「なるほど・・・」 キールは驚かなかった。 逆にそれでグリムの考えている事を理解したようだった。 キールはグリムの目を見つめた。
「一つ聞きたい。 ユーゴ、お前はこの国を背負う覚悟があるのか?」
「・・・・・」今度はグリムが黙ってしまった。
「お前のやろうとしていることは、突き詰めればお前が国を治めるということだ。 お前にその覚悟があるのなら、協力しよう」
「俺は、自分に国を治めるなんてできるとは思っていない。 だが、このままクラウスに任せてはいけないと言うことだけは言える。 もし俺のような戦う事しか能のない者でも、それでもこの国が必要としてくれるのなら、何にでもなろう」
「そうか、分かった。 具体的なプランを聞こう」
それから10分ほど話して、グリムはキールの家を出た。 キールはドカッとイスに座ると大きくため息をついた。 目をつむってしばらく考えていた。 そして電話をかけた。 男が出るとキールは言った。
「先ほど、ユーゴが来ました」




