15-2 約束
クオール達が王都マリウルに戻って来ると、街中は大騒ぎになっていた。 戻ったのはクオール、キランと20騎ほどの部下という構成だったが、そこにグリムはいなかった。 女王より、報告のために戻るようにとの命令を受け、軍勢は残したままだったのだ。 街の人々は、沿道に出て敵の軍勢を追い払った英雄達の凱旋を見ようと集まっていたのだ。 人々が話しているのは“魔獣将軍”のことだった。
「魔獣将軍はどの方だ?」「魔獣将軍が魔獣を使ってカーセリアルを追い返したって本当か?」 などグリムを見ようとしていたのは明らかだった。 クオールは面白くなかった。 グリムも一緒に戻って来るように言われていたのだが、王都にはグリムは別に入るようにとの指示があったからだ。
クオール達が王宮に到着し、女王に謁見しようとした時、グリムは既に到着していた。 クオール、キランはそろって女王に謁見した。 グリムはいなかった。 それがまた、クオールには面白くなかった。
「皆の者、良くやってくれました。 私は大変うれしく思います」アリエノーラは上機嫌だった。
「はっ、ありがとうございます」2人は頭を下げた。
「クオール将軍、後ほど別室で詳しく聞かせてください」
「あ、はい、しかし陛下、今回の作戦は全面的にグリム殿の指揮の下の作戦です。 グリム殿のからお聞きになられる方がよろしいかと」
「何を言うのですか、クオール将軍。 今回の作戦はあなたの作戦で、あなたが今回の最もの功労者ですよ」
「えっ、しかし陛下・・・」
「とにかく、後で話しをしましょう」 そう言うと、アリエノーラは立ち上がった。
一時間後、グリム達は会議室で女王と話し合いを持った。
「陛下、恐れながら、一連のグリム殿に対する仕打ち承服しかねます。 今回の第一の功労者はグリム殿であり、私は人の手柄を盗む様なことはしたくありません」 クオールは憤慨している自分の気持ちを顔に出さない様にしながら言った。
「良いんだ、クオール殿。 これは・・・」 グリムが言いかけた時、アリエノーラは右手を上げてグリムを制した。
「あなたの言いたいことは分かりました。 しかし、今回の作戦はあなたの作戦であり、あなたが一番の功労者です」
「な、何故です。 グリム殿がカーセリアル人だからですか」
「そうです」 アリエノーラは真顔で言った。 キランは今まで黙って聞いていたが、女王のその言葉には驚いた。
「まあ、聞きなさい。 これは今後のためなのです。 クオール将軍、あなたはこの戦争を終わらせる最善の策は何だと考えていますか」
「そ、それは、カーセリアル軍をこの大陸から追い出す事です」
「本当にそう考えているのですか。 本当にそうできると・・・」
「現状では確かに難しいことではありますが、グリム殿がおられれば可能だと考えております」 クオールがそう言うと、キランも頷いた。
「それは無理ね」
「何故です」
「それは、グリムはここを去るからです。 これは戦いの前からの約束です」
「グリム殿が、捕らわれているご息女を助けに行かれると言うことですか」
「そうです。 そして我々はそれに手を貸すことも約束しています」
「それに我等も異存はございませんが、それと先ほどの件がどう繋がるのでしょうか」
「私はこの戦争を終わらせるには、どうしてもグリムにカーセリアルの王になってもらうしかないと考えています」
「それは、何度も・・」グリムが言おうとすると、またアリエノーラに制止された。
「その場合に、グリムがアルクオンの将軍としてカーセリアルと戦った。 しかも多くの同胞を殺したなどと言うことが広まれば、国民はグリムを王として受け入れることに嫌悪感を覚えるでしょう。 たとえグリムが、戦争を止めるためにやむを得ず行なった事だとしてもね」
「あっ、そう言うことですか」 クオールもキランも理解した。
「ですから、魔獣将軍などいないのです。 公式の文書にはどこにもグリム将軍は出てきません。 あくまで今回の作戦を立案、指揮したのはクオール将軍なのです」
「自分としては、人の手柄を横取りしているようで気持ち悪いですが、陛下の意図は理解いたしました」
「よろしい。 レビン達にも良く理解させてください。 魔獣使いはアルクオンの一兵士です。 そして今回の戦いで戦死し、主を失った魔獣は去ってしまったのです」
「承知いたしました」




