15-1 クラウスの怒り
王国軍庁舎、クラウスの執務室
「何だと! サルバン攻略に失敗しただと」 クラウスは拳で机を叩いた。
「はい。 サルバンへの一斉攻撃直前に、拠点としていた三つの砦が奪還され、やむなく撤退したとのことです」情報将校はクラウスが激昂するのを恐れながら報告した。
「セルゲイともあろう者が、易々とそのようなことはさせないはずだ」
「何でも、アルクオンには魔獣使いがいるらしく、魔獣の群れに軍勢が攪乱されたり、巨大な魔獣に砦の指揮所を潰されたりしたそうです」
「うーむ、それにしても何か引っかかるな。 今までの戦い方とも違っているように感じるな」 自分でも気持ちを落ち着かせるようにしながら言った。
「そうですね。 報告には、正確に三つの砦に設置した指揮所のユニットだけを狙って破壊していることや、奪還された砦ではアルクオンの兵達が銃器を使用していたと言うことなので、カーセリアルの者が使い方を指導したのでは無いかと考えているとのことです」
「裏切り者がいるということか? まてよ、前にも似たようなことが無かったか?」 クラウスはあごに手をやりながら考えていたが、やがてハッとすると言った。
「ユーゴだ。 たしかユーゴは今、アルクオンに潜伏している可能性が高いと言っていたな。 奴しかいない。 どこまで私の邪魔をするのだ。 これでまたアルクオン征服が後退したではないか」
「クラウス様、実はもう一つ悪い知らせがございます。 どちらかと言うとこちらの方が厄介かと」 将校はためらいながら言った。
「何だ? これ以上私をイラつかせるな」
「これを見てください」将校は少しためらいながら、クラウスに写真を渡した。
「衛星写真か? 何だこれは・・・」
「これはマリウルを偵察した写真です。 これをご覧ください」 男は都市から離れた写真の隅の方に映っている黒い塊を指さした。
「なんだ、これは? 岩山か? いや違うな、人工物だな」
「その通りです。 しかもこの大きさ。 何か思い当たりませんか?」
「ずいぶん大きいな。 これは、まさか・・・。 いや、だが似ている。 これは宇宙船なのか」
「その可能性が高いと思います。 一カ月前にはこんなもの、ありませんでした」
「もし、これが宇宙船だとしたら、その意味するところは何だ」
「このニューアースの攻撃でしょう」
「核か・・・。 奴ら核兵器を使おうと言うのか?」
「恐らく・・・」
「許さん。 そんなこと断じて許さないぞ!」
「どうされますか」
「こちらの例のやつはどうなっている?」
「秘かに保管されているはずです」
「場所はどこだ?」
「正確な場所は我々も知りません。 それはトップシークレットで、それについて知るものは国王陛下の他数名のはずです。 ですが北の山岳地帯の、危険なため立ち入り禁止になっている地区があり、そこが怪しいと考えております」
「探せ。 奴らより先に、こちらがおみまいしてやるんだ」
「しかし、それは国王陛下のご命令でしか、動かせないはずです。 陛下は絶対に許可しないでしょう」
「次期国王の私がやるのだ。 許可証など偽造でも何でもやってやる。 躊躇していたらここは廃墟になるぞ。 責任は私がとる」
「承知いたしました」 将校はそう言うと、部屋を出ていった。
(くそ忌々しいユーゴといい、カーセリアルの宇宙船といい、本当に不愉快だ。 私の計画がどんどんくるってくる。 誰にも私の邪魔はさせない)




