14-13 カーセリアルとの戦い(5)
翌朝、グリムは100人の捕虜を解放した。 砦の門の外で三日分の食料と護身用に拳銃とナイフの携行を許した。 サラは門の上から弓を持って兵士達の行動を警戒した。
「あんた、カーセリアル人だろう? しかも軍人だ。 あんた恥ずかしくないのか? 国を裏切り、敵国のために働いて・・」 大尉の階級章をつけた男がグリムに食ってかかった。
「ああ、恥ずかしいよ。 カーセリアルは人の国に土足で攻め込み、土地を奪い罪の無い人々を殺した。 これは侵略戦争だ。 カーセリアルには何の正義も無い。 お前達こそ自分のやっていることに、胸を張れるのか?」
「な、何を言う。 我等は亜人からこの地を取り返すために・・・・」
「亜人だと。 彼らのどこが亜人だ!」 グリムはサラを指さした。
「彼らは人間だ。 そしてカーセリアルよりも先にこの星にたどり着いた地球人だ」
「嘘だ! お前はアルクオンにたぶらかされているんだ」 別の兵士が叫んだ。
「嘘を言っているのはカーセリアルだ」
「嘘だーっ!!」 その兵士は拳銃を抜くとグリムに向けた。 グリムも反射的に動き、次の瞬間二発の銃声がした。 兵士の撃った弾はグリムの左の頬をかすめていった。 グリムが撃った弾は、兵士の額を撃ち抜いていた。
「チッ」グリムは意に反する結果に、思わず舌打ちした。 それを見て、他の兵士達が色めき立った。 銃を抜こうとする者もいた。
「止めろ! これ以上死人を出すな!」指揮官が制した。 そしてカーセリアルの兵達は砦を下りて行った。
カーセリアルのサルバン攻撃軍
二つの砦が落ちた事は、その日の朝には伝わった。
「何と言うことだ! すぐに陣を払うぞ。 西の砦が危ない」 総司令官セルゲイは即座に命じた。 そしてその動きは迅速だった。 陣には旗も掲げたまま、兵も最低限の糧食と武器を携行させ秘かに、そして速やかに移動させた。 追撃を警戒したのだった。
クオールの本陣
カーセリアルの軍勢2万が秘かに姿を消してから、そう時をおかずクオールも敵陣の異変に気付いた。
「斥候の報告によると、敵の陣はもぬけの殻とのことです」
「そうか、ではこちらも追うぞ。 追撃だ!」 クオールは全軍に命じた。 クオールはグリムと別れる前に、グリムから言われていた。
「カーセリアル軍は、砦が奪取されたと聞いたら慌てて軍を退くはずです。 三つの砦全てが奪われれば、補給を断たれる事はもちろん挟撃の恐れもあるからです。 ですので、奴らは可能な限り速やかに軍を退き、最後の西の砦を死守しようとするでしょう」
「なるほど」
「それで、クオール殿は敵が退いたら、速やかに追撃をしてください。 追撃をしなければ、砦を奪うことが出来たとしても、すぐに奪い返されてしまうでしょう。 逆に追撃を受けていれば、砦が奪われたと知れば砦の奪還を諦めて、そのまま南下して退却するはずです」
「承知した」
東の砦
昼頃には、中央の砦から2千の兵が到着した。
「おう、良く来てくれた!」 サラが笑顔で迎えた。 サラの直接の部下達が送られて来たのだった。
「将軍のご活躍はお聞きいたしました。 グリム将軍とたったお二人でこの砦を落とされたと」 指揮官が嬉しそうに言った。
「私は大した働きをしていない。 全てグリム殿とグレイブという魔獣のお陰だ」
「ご謙遜を、あなたがいなければ落とせなかった」 グリムは笑いながら言った。
「グリム殿、からかわないでいただきたい」
「いや、実際に私一人だったら砦の襲撃は考えなかったでしょう」
「そう言っていただけるのは、ありがたい」
「だが、正念場はこれからです。 今夜は逆にこちらが攻められるでしょう」
「お前達、頼むぞ!」
「お任せください。 それでは早速、準備にかかります」




