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3-4 魔獣襲来(1)

 「グリム! そっちへいったぞ!」 ゼオルが叫んだ。 すると山の斜面を一頭の獣が猛スピードで駆け下りてきた。 額に二本の鋭い角がある、熊のような獣だった。 その獣は、グリムに気がつくと方向を変え、木の間を縫うように“V”の字に斜面を駆け上がっていった。 グリムは弓を構え、落ち着いて獣を狙った。 次の瞬間、放たれた矢はまるで意志を持つかのように木々の間をすり抜け、獣の背中に突き刺さった。

「ヒギーッ!」 獣は大きな悲鳴を上げると、一瞬後ろ足立ちになるとそのまま斜面に倒れ込んだ。

「やったぞ! グリムが倒したぞ!」 近くにいた村の若い戦士が歓声を上げた。 ゼオル達もやって来た。 今日は村人8人で狩りに来ていたのだ。


 「もう村に来て半年か。 弓も大分上達したな。 アクロの力も使いこなしているようじゃないか」

「ゼオルとゲリオルさんのお陰だ」

「もう完全に制御できるようになったのか?」

「うーん、頭痛などの体の不調はなくなったが、力の加減というのがまだ難しいな」

「どんなことができるようになったんだ?」

「視覚、聴覚、嗅覚の向上、筋力の向上、平衡感覚の向上かな。 それとこんなこともできる」 グリムはそう言うと、仲間達が仕留めた獲物の運び出しに苦労している様子を見て、獲物を空中に浮かせて移動した。

「まったく、お前は別格だな。 普通はアクロの力を手に入れられたとしても、実用レベルの能力は一つか二つだぞ。 どうなってやがる」

「ははは、俺にも分からん」


 ライカイの邸(ゼオルの部屋)

 グリム達は獲物を料理し、酒を酌み交わしていた。 酒が大分回ってきた頃、村人の一人が思い出したように言った。

「そう言えば、最近隣の村でムスガルが現れたってよ」

「えっ、それで被害はどれ位だ?」

「何でも家畜の鳥と羊がかなりやられたという話だ」

「ムスガル?」 グリムは分からず聞いた。

「ムスガルというのは、全身緑色の毛に覆われた猿のような魔獣だ。 体は人より少し小型なくらいだが、俊敏で凶暴だ。 三ツ目で狡猾で、学習能力が高い。 人をまねて剣や槍を使うこともできる」ゼオルが説明した。

「しかも群れで襲ってくるから、始末が悪い。 一日、二日で村が一つ全滅させられたこともあるって聞くぞ」別の村人が言った。

「それで、隣村はムスガルを撃退出来たのか?」

「いや、家畜は諦めて、村人同士守るのが精一杯だったっていう話だ」

「じゃあ、この村にも流れてくるかも知れないってことか?」

「それはいつの話だ?」

「ああ、三日ほど前の話だ」

「ゼオル、警戒する必要があるんじゃないのか」村人の一人が言った。

「そうだな、親父達と対策を検討しよう」


 翌日の朝、ゼオルがやって来た。

「やあ、どうしたこんな早くから」

「ちょっと一緒に来てくれ。 カウマの所にムスガルが出たようなのだ。 急遽これから対策を話し合うことになった」


 二人はゼオルの家に向う途中で、村の北西にあるカウマの畑によった。 村人のカウマが案内してくれた。 そこは芋畑だったが、芋が掘られ荒らされていた。 回りには裸足の足跡がいくつもあった。 人のものよりは小振りだったが、細長く指が発達した独特の形をしており、明らかに人のものとは違っていた。 足跡の回りには、緑色の長い毛が落ちていた。


「一体ではないな。 二、いや三体だな」 グリムは足跡を調べて言った。

「恐らく、先発隊だろう。 目をつけられたとすれば、今日、明日にでも群れで襲ってくるかも知れない」

「群れってどれ位だ?」

「隣村に現れたのは100体くらいという話だ」

「まずいな」グリムはうなった。 


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