14-12 カーセリアルとの戦い(4)
グリムは闇の中で立ち上がった。 灯りは点けていないが、グリムには問題無く周りが見えていた。
「行こうか」グリムはグレイブに言った。
「行くって、どこにですか?」 サラが困惑顔で言った。
「砦だ。 制圧する」
「えっ、予定では中央の砦を落とした後、軍勢をこちらに振り向けて落とす手はずでは・・・」
「そうだったが、こちらに来ているカーセリアルの軍勢は約1万。 今は思いもかけぬ魔獣との戦いに混乱をきたしているが、それも一時的なものだ。 あの軍勢が砦に入ってしまったら、落とすのは容易ではない。 だが今なら、守備兵はせいぜい100名ほどだ。 今なら落とせる」
「なるほど。 ですが、それをグリム殿と私でやるのですか?」
「グレイブもいる」
「分かりました。 やりましょう」
砦の上で下の混乱状況を覗いていた兵達のど真ん中に突然、大きな翼の風切り音と共に、グレイブが舞い降りた。 兵達はあまりのことに一瞬何が起きたのか分からなかった。 グリムは素早くグレイブから降りると、指揮官を見つけそこへ駆け寄った。 指揮官も周りの兵達も、あまりの速さに何もできなかった。 グリムは指揮官の背後に回ると首に腕を回し、のど元にナイフを突きつけた。
「武器をすてて、降伏しろ。 ここは我々が制圧した」
「バカな! 我々はまだ負けていないぞ」
「あの魔獣を見ろ。 昼間アイツが何をしたか知っているだろう。 あくまで抵抗するというなら、魔獣にこの砦を焼き払わせて、黒焦げの死体を並べることになるだろう」
「クソッ!」
「無駄に兵を死なせることはない。 投降するならば命は保証する」
「危ない!」 サラはグレイブの背中の上に立ち、弓を構えて周りを警戒していたが、建物の陰からグリムの背中を狙っていた兵士を見つけ、矢を放った。 その矢は兵士の胸に深々と突き刺さり、その場で床に突っ伏した。
「わ、分かった。 投降する。 皆、武器をすてよ!」 指揮官は兵達に命じた。 兵士達は渋々命令に従い、銃やナイフを捨てた。
グリムは兵士達を一つの宿舎に押し込めた。 100人には狭いことは分かっていたが、夜が明けたら解放するつもりだったので気にしなかった。
「断っておくが、この建物から出れば脱走した者とみなし、あの魔獣が食い殺す」
扉には鍵をかけて、その前にはグレイブが陣取っていた。 サラはシーツを使い、簡易的なアルクオンの旗を幾つも作り、砦のあちこちに掲げた。 それが終わった頃、岩山の麓は静かになっていた。 カーセリアルの兵達はちりぢりに逃げた。 魔獣達も、それぞれが住処に帰って行った。
グリムはキランに連絡を取った。
「グリム殿、こちらの砦は奪取しました」
「それは良かった。 こちらも奪取した」
「えっ、もしかしてたった二人で砦を落としたのですか?」
「まあ、グレイブの姿を見せて脅したら、投降した」
「はあ、そんなことあなたにしか出来ませんよ」 キランは呆れたように言った。
「夜が明けたら、こちらに2千ほど送ってください。 敵は混乱してちりぢりになっているが、午後には再編して砦を攻めてくるでしょう」
「分かりました。 西の砦は予定通りで良いですね」
「ええ、ただしスピードがきもです。 東と中央の砦が落ちたと知れば、全力で西の砦は死守しようとするでしょう。 サルバンに迫った軍は速攻で返してくるでしょう」
「分かりました」
「捕虜はいますか?」
「20人ほどいますね」
「むやみに殺さないようにしてください。 出来れば食料を持たせて解放してください」
「しかし、それでは兵達が納得しないでしょう」
「戦闘以外で兵を殺すのは、倫理的にまずいです。 そしてそれは恨みを残すことになります」
「分かりました。 無抵抗の者を殺すのは戦士のやることではないですからね」
「お願いします」




