14-9 カーセリアルとの戦い(1)
カーセリアルの軍勢は総勢3万。 構成はほとんどが歩兵である。 現在はサルバンから100キロほど南西にある3つの砦を前線基地として、更に北に進軍している。 グリムが索敵した限りでは、1万ずつ3つの部隊に別れサルバンまで20キロほどのところまで迫っていた。 グリムは数日の内に両軍が激突するとみていた。
夕刻グリム達はサルバンの東を南に進軍していた。 キランが王都から連れてきた兵5千、レビンとサラが配下の兵5千の計1万の軍勢だった。 レビンがグリムのところへやって来た。
「そろそろですか?」とレビン。
「ああ、そうだな」グリムは時計を見た。
「では速度を上げます」 そう言うと、レビンは離れて行くと、行軍の速度を上げた。 次第に暗くなっては来ていたが、彼らにとっては夜間に森を歩くこと自体はそう難しい事ではなかった。 彼らが夜間に動かないのは、夜になると獣や魔獣の活動が活発になるためその危険をさけるためだ。 だが今はその心配は要らなかった。 何故ならグリムが辺りの魔獣を事前に感知出来る事と、グレイブの気配を魔獣達が恐れ避けようとするからだった。
今朝の軍議
「そんな、あんたは今、カーセリアルは空に目を持っていると言ったばかりじゃないか。 それなら俺達の進軍はすぐに見つかるだろう」とレビン。
「その通りだ。 だがそれも万能ではない。 奴らは二つの衛星を持っているがどちらも静止衛星では無い。 二つでカバーしあっているが、それでも抜ける時間帯がある。 そこを突く」
「言っていることが良く分からないが、つまり目が使えなくなる時間があると言うことか?」
「そうだ。 その時間を利用して一気に南下する」
「それでもすぐに見つかって、奴らの軍勢が追ってくるだろう」
「それで構わない。 奴らの目を逆に利用する。 奴らは砦の近くに我々の軍勢が現れることによって、慌てるだろう。 そして我等の狙いが砦だと判断して、我等を追わざるを得なくなる。 奴らは我等がサルバンでの決戦を望んでいると考えて、砦には僅かな守備兵しか残していないはずだ。 それで恐らく1万ほどの兵を向わせるだろう」
「残った我等はどうする」とクオール。
「サルバンの郊外に柵や堀を掘って防備を固めてくれ。 あくまでサルバンで戦うのが本意だと思わせておく。 もし奴らが攻めて来ても固く守ってくれ。 長期戦にはしない。 20日の内には勝負をつける」
「承知した」
深夜、森の中
軍勢は休憩を取っていた。
(そろそろ日付が変わる。 衛星がまた姿を現わす頃だ。 やっと15キロくらいか。 奴らがこちらに気付いたとしても、夜間だから動けないはずだ。 行動開始は夜明けになってからだろう。 それまでに距離を開けておきたい)
「休憩終わりだ。 進軍を開始せよ」レビンが命じた。
カーセリアル軍、東軍
「師団長、アーセリアルの軍勢が南進しております」 連絡将校が未明に報告した。
「何だと!」 東軍の師団長、ブレイガーはメガネをかけると、指揮所からのデータを見た。 地図データに敵軍勢の位置が表示されていた。
「ふん、裏をかいて秘かにこちらの背後を襲うつもりか?」 ブレイガーはじっと見つめていたが、顔を起こして言った。
「違うな。 これは砦の奪取だ。 皆を起こせ。 奴らを追うぞ」
「師団長、今は無理です。 夜が明けるまでは動けません」
「クソッ、ならば夜明けとともに戻るぞ、準備をさせよ。 他の師団にも連絡するんだ。 我々は背後のネズミを始末するので、サルバンの方はまかせるとな」
「承知しました」
「裏をかいたつもりだろうが、そうは行かんぞ!」




