14-4 女王の提案
クオール達がグリムのもとを訪れてから二日後、グリムは女王から呼び出しを受けた。 グリムが宮殿に行くと、秘かに女王の部屋に通された。 そこには女王ただ一人しかいなかった。
「良く来てくれました。 まあかけなさい」 アリエノーラはソファーを勧めると、自分はその対面に座った。 今までには無かったパターンに、グリムは訝しんだ。
「今日は、何のご用でしょうか?」
「まあ、そう構えずに。 今日はあなたに相談があります」
「相談ですか・・・・」
「戦争のことです」
「私はこの国の軍人ではありません。 一時将軍職を賜りましたが、あれはあの“遺跡”の作戦を指揮するための方便のはずです」
「それですが、このまま将軍として、我が国の防衛に力を尽くしてはくれませんか」
「私に元の同僚達と戦えとおっしゃるのですか?」
「それはあなたにとっても、本意では無いことは分かっています。 しかし現在の戦況を打開できるのはあなたしかいないと考えています」
「それは買いかぶり過ぎです。 私一人が加わったくらいでは、何も変わりませんよ。 クオール殿がおられるではありませんか」
「確かにクオールは有能な将軍です。 ですが、今までの我々の戦い方では十分な戦果を出すことができませんでした。 このままではサルバンが落ちるのも時間の問題です。 サルバンが抜かれれば、ケアルは防備に適してはいませんので、そのまま抜かれてしまうでしょう。 あなたは遺跡の件でも、期待以上の成果を出しました。 今は柔軟な発想と戦術が求められています。 力を貸してください」
「私もカーセリアルは侵攻を止めるべきだと思っています。 止められるものなら止めたい。 しかし私にはそんな力はないし、第一にサウゲラ殿や多くの兵達が認めないでしょう。 無理ですよ」
「・・・・」 アリエノーラは少し考えていた。
「私は今、大きな決断に迫られています。 あなたにも遺跡で出てきた物が何か理解しているのでしょう?」
「アルクオンの祖先達が乗ってきた宇宙船ですよね」
「そうです。 私が何を考えているか分かりますか?」
「あの船に搭載されている兵器を使い、カーセリアルの王都を攻撃する」
「その通りです」
「無茶だ。 失礼ですが、あなたはその兵器の威力がどれ程のものかご存知ですか?」
「大きな被害が出るでしょう。 数万人以上の・・・」
「いや、もっとだ。 恐らく数百万人の規模になるはずです」
「そんなに・・・」
「女王陛下、人類が前に住んでいた星、地球に人が住めなくなった原因の一つに、大量破壊兵器の使用だという説があります」
「それは私も聞いたことがあります。 ですから先祖達はこの地に降り立った時に、あの船と供にその兵器を封印したのでしょう」
「ならば、今その禁を犯してはいけません」
「ですがこのままでは、我々は早晩滅びます。 そんなことはさせません」
「陛下、もしあの船の兵器を使えば、カーセリアルから同様の報復を受けますよ」
「うっ、やはりカーセリアルも保有しているのですか?」
「私はその情報を知りません。 ですがどこかにカーセリアルの人々が乗ってきた宇宙船があるはずです。 それで報復攻撃すると言うことは十分にあり得ます。 もしお互いにそれを使ってしまったら、両国の人々の大半は死に絶えるでしょう。 それだけではなく、この星事態が地球のように生物の住めない星になってしまうかも知れません」
「それでは私にどうしろと言うのですか? このままカーセリアルに降伏せよとでも言うのですか。 そんなことは絶対にできません」
「・・・・・・・」
「私は決めました。 もう少しすれば船の点検と整備が終了するでしょう。 そうしたらあの船で、カーセリアルを攻撃します」
「どうかお考え直しください」 グリムがそう訴えると、アリエノーラはグリムを見つめながら不適な笑みを浮かべた。
「私は歴史上最も愚かな王と言われようとも、この決断は変えない。 もしあなたがこの決断を変えたいと思うならば、あなたが我が軍を指揮し敵を追い返しなさい」
「無茶な!」
「無茶でも何でもやりなさい。 あなたは一度自軍の指揮所を破壊して軍を撤退させたのでしょう」
「どうしてそれを・・・」
「我が国の諜報能力を侮らないで欲しいわね。 何も軍勢を壊滅させろとは言っていません。 軍勢が撤退せざるを得ない状況に持って行ってくれれば良いのです」
(簡単に言ってくれる。 そんなことは単純に戦うこと以上に難しいぞ)
「少し考えさせてください」
「いいわ。 だけど時間はあまり無いわよ。 それと一つだけ良いことを教えてあげる。 あなたの娘は現在クラウス王子の邸に軟禁されているわ」
「何だって!」
「外に出ることはできないけど、必要な物は与えられ元気で過ごしているということだわ。 もし今回の件が成功したら、今度こそ我々がその子の奪還作戦に手を貸してあげる」
「約束ですよ」 グリムがそう言うと、女王は笑った。
(しまった。 これでは女王の申し出を受け入れてしまったのと同じじゃないか)
「ええ、約束です」




