3-3 戦士の試験
20日後、村の広場
この日はほとんどの村人が集まっていた。 この村では15歳になると成人する。 今回成人し戦士の試験を受ける10名が広場の中央に集まっていた。 皆若々しく幼い顔や成長しきっていない体からは、青年と言うには早すぎる感が強かった。 そしてその側に一人違和感のある男が立っていた。 グリムはどう見ても20代後半である。 一人だけ10歳以上うえのおじさんが混じっており、違和感ありありだった。 村人達が見守る中、村長のライカイが試験の開始を宣言した。
一種目目は相撲である。 相手は昨年の相撲大会優勝者のアルガ。 身長190センチ以上、体重は120キロ位あるだろう。 引き締まった筋肉の塊のような男で、いかにも強そうだった。 ルールも単純で、上半身裸で組み合って足の裏以外の体の一部が、地面に着いた時点で勝負が着くというものだった。 グリムの順番は最後だった。 勝負が開始されると、戦いは一方的だった。 やはり体格差が圧倒的で、どの挑戦者もアルガに対して秒殺された。
グリムの番が来た。 グリムがシャツを脱ぐと、上半身の鍛えられた筋肉を見た村人からどよめきが起こった。
「ほう、少しはやりそうだな」とアルガ。 二人がお互い右四つに組み合った。 「はじめ!」ゼオルが開始を宣言した。 二人はビクとも動かなかった。 お互いの力がぶつかり合って、お互いに動けなかったのだ。 アルガに驚きの表情が現れた後、次第に苦しそうな表情に変わっていった。 アルガの体が右に傾いていき、必死に投げられるのをこらえているのが明らかだった。
(何だと、俺が力負けしていると言うのか)とアルガ。
「グリムおじさん、頑張れ!」ペックの声だった。 アルガが負けまいと更に力を入れた時、一瞬抵抗が消えた。 そして次の瞬間には、アルガが地面に転がっていた。 グリムが右の下手投げにいこうとしていたのを、アルガが更に力を入れた瞬間に左の上手投げに切り替えて投げたのだった。 観衆から驚きの声と歓声が沸き上がった。
二種目目は弓だった。 約40メートルの先の50センチほどの丸い的を狙うというものだった。 今回もグリムは最後だった。 他の者たちは、さすがに小さい時から弓を練習しているせいか、皆次々と当てていき、危なげなくクリアした。
グリムの番がきた。 グリムはこれまでの練習では、普通にやった場合当たる確率は5割ぐらいだった。 一本目、的の上を僅かに外れた。 二本目も的の右下に外れた。 三本目も僅かに左に外れた。 観衆にざわめきが起こった。
(まずい、もう一本も外せない) グリムは深呼吸し、精神を集中させた。 そして四本目、放った矢は的の真ん中に当たった。 ただしそれは目の良い者が見たら少し違和感があっただろう。 何故なら矢が途中で微妙に軌道を変えたからだ。 そしてそれ以降、グリムは残り全て的の中心に当てた。 観衆からまた歓声が上がった。
三種目目、綱渡り。 村の西にある峡谷に張られたロープを渡るのである。 高さは約50メートル、幅も50メートルほどあった。 下には川が流れており、泳ぎの達者な村人達は、落ちても余程のことが無い限り溺れ死ぬことはなかった。 念のために下の川には、小舟に乗った村人が待機していた。 若者達は、さすがにこれは躊躇していた。 それで今度は、グリムが最初になった。
グリムは、精神を集中し感覚を研ぎ澄ました。 足から伝わる感覚はもちろん、風の音からロープの揺れに与える影響などを予測するなど、全感覚を動員した。 初めの数歩は慎重に歩を進めたが、その後は時間をかけすぎると良くないと判断し、一気に駆け抜けた。 これには若者達も村人も驚いた。 その後に続く若者達もグリムをまねしようとしたが、すぐに無理だと諦めた。 若者達は、両手両脚を使ってロープにぶら下がり、慎重に進んでいった。 結局、若者10人の内7人が渡りきり、2人が落ち一人が恐怖で渡れなかった。
最終的に、戦士の試験に合格したのは、グリムを含め10名で、峡谷を渡れなかった1名だけが落ちた。
「お前には驚かされてばかりだな。 弓はヒヤッとしたぞ。 アクロの力を使ったな」とゼオル。
「ああ、絶対に外せなかったのでな」
「まあ、良いさ。 違反ではないからな。 これでお前も俺達の仲間だ」
「よろしく頼む」