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13-14 女王の怒り(2)

 女王は明らかに怒っていた。 グリムと供に会議室に戻るとキランに向って言った。

「キラン将軍、貴方は真実を私に報告しましたか?」

「そ、それは・・・」

「ハッキリ申しなさい。 私に嘘は許しませんよ。 貴方はグリム将軍を殺そうとして、わざとグリム将軍の手を離したのですか?」 キランは横目でサウゲラの顔を見た。 サウゲラは黙ってうつむいた。

「お前は王国の意志だと言ったな。 お前が言う王国とは誰のことを言っているのだ?」とグリム。

「陛下、申し訳ございません。 報告は嘘です。 私がグリム将軍を殺そうといたしました」

「誰の命令です」

「私の判断です」

「キラン将軍、この後に及んで、まだ私を愚弄するつもりですか」

「陛下、お止めください。 キランに命じたのは私です」サウゲラが言った。

「じい、やはり貴方でしたか。 何故です?」

「王国のためです。 この者は危険過ぎます。 いずれ我が国に禍をもたらすでしょう」

「何を根拠に・・。 グリム将軍は私の無理な願いを聞き入れ、約束を果たしたのですよ。 それを、功に報いず裏切りで報いるなど、どれほど私の顔に泥を塗るのですか!」

「この者は、カーセリアルの武人です。 今は国を追われておりますが、いずれ陛下の恩も忘れ、我等に牙をむくでしょう。 そしてそうなった場合、この者の力は脅威です。 現に庭のあのような魔獣を手なずけてしまう事が、何よりの証拠です。 もしこの者が森の魔獣達を集め、王都に攻め入ったらならば、王都は壊滅するでしょう」

「バカらしい。 なぜ、俺がそんなことをしなければならないのだ」

「サウゲラ卿、それは考えすぎです。 グリム将軍はそんな方ではありません」 アリエノーラは少し落ち着いた様子で言った。

「陛下、失礼ですが、なぜそう言い切れるのですか?」

「もう良い、こんな問答をしていてもラチが空かない。 サウゲラ卿、そしてキラン将軍、謹慎を命じます。 処罰は追って沙汰します」

「はっ、いかようなご処分もお受けいたします」とキラン。


 サウゲラとキランが退室した後、アリエノーラはグリムに向って言った。

「グリム将軍、本当に申し訳ないと思います。 私の命令が徹底されていなかった」

「陛下の意志では無いことが分かっただけで、十分です」

「そう言ってくれると、助かります。 この功には必ず報いるので、待って欲しい。 何か希望はありますか?」

「私の希望は、ただ一つです。 セシールを助けに行くことをお許し願いたい」

「その件か、考えておきます」

「いや、考えておきますでは無くて、お約束いただいていたはずです」

「こちらにも色々と事情があるのです。 決して悪いようにはしません」

「くっ、・・・・」 グリムはそれ以上何も言えなかった。


 グリムが王宮から、カエンの待つ迎賓館に戻ると、カエンが飛び出して来てグリムに抱きついた。

「良かった。 無事に戻ってきてくれて」

「ただいま」

「怪我していない? お腹空いていない?」

「大丈夫、怪我はしていない。 腹は減っているな」

「分かった、準備させるね。 あら、その子はなに?」 カエンはグリムについてきている黒い犬のようなものに気がついた。

「あれ、何か変。 背中に翼があるの? 魔獣の子?」

「子どもではない、成獣だ。 本当の姿はこの100倍以上は大きい。 名はグレイブ、俺がつけた」

「どうしたの? 拾ってきたの?」

「勝手についてきた」

「ふふふ、あなたらしいわね。 よろしくね、グレイブ。 アタシはカエンよ」 そう言うと頭をなでた。 グレイブは嫌がる様子もなく、黙ってされるがままにした。


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