13-12 遺跡の守護獣(3)
魔獣は額から赤い血を流し、口からは泡を吹き、白目をむいて地面に横たわっていた。
(死んだのか? 俺が倒したのか?) グリムは恐る恐る魔獣に近づいた。 顔に近づくと、鼻から息が漏れてくるのが感じられた。
(生きている。 とどめを刺しておいた方が良いか・・・) グリムがそう考えていると、声が聞こえた。 いや、正確には頭に響いたのだった。
「止めてくれ。 私の負けだ、もう終わりにしよう」 グリムは驚いた。
「えっ、もしかしてお前が話しているのか?」 グリムは魔獣に向って話しかけた。 魔獣はゆっくりと首を起こすと、前脚を伸ばし犬が“伏せ”をする格好でグリムに向き合った。
「そうだ」 魔獣の口は動いていなかった。 テレパシーで話しかけているのだろう。
「なぜ、お前はアレを守っていたのだ? アレが何なのか知っていたのか?」
「あれが何かは知らなかった。 ただあれが人の作った“災厄”であることだけは分かっていた」
「災厄?」
「そうだ。 “大いなるお方”が言ったのだ。 遙かなる地より人が災厄と共にやって来たと」
「“大いなるお方”とはどんなお方だ?」
「“大いなるお方”は大いなるお方だ。 姿を言うことに意味は無い。 その時々によって様々な姿をとられる」 それを聞いてグリムは、クオン村の近くの山で受けた“山の神の審判”で会った紫色の不思議な生き物(山の神?)のことを思い出した。
(恐らく同じお方なのだろう)
「大いなるお方は、私に言われたのだ。 これは人が捨てた物だ。 だがいずれ愚かな者達がこの地を訪れ、これを再び使おうとするだろう。 だからこれが朽ち果てるまで、誰にも渡さぬようにせよと」
「なるほど」
「ならば今度はこちらから問う。 お前は何者だ? 常人ではあのような戦いはできぬ」
「お前のいう、“人”のつもりだが」
「ならば、あの力はどのようにして得たのだ? 人も多少力を使える者もいるが、お前のは桁違いだ」
「山の中で、黄金色の水を飲んだらこうなった」 魔獣はそう聞いても、なお疑わしそうな目で見た。
「お前が先ほど力を使った時、お前の瞳が金色に光っていた。 お前の力に“大いなるお方”の力を感じた」
「そう言われても、俺には良く分からない」
「そうか、まあ良いだろう」
「それで、これからどうするつもりだ。 アレは行ってしまったぞ」 グリムが尋ねた。
「それはお前に委ねる」
「はあ? 訳が分からない」
「私はあれを、誰にも渡さないように守ってきた。 お前達が入り込んでしまった時、渡すくらいなら破壊してしまおうと考えた」
「だが、それもできなかった」
「そうだ。 だが大いなるお方は、こう言った。 『お前が守って、なおあれを奪取する者がいたのなら、お前が信ずるにたる者に従い、結末を見届けよ』と」
「はあ? それが俺だと言うのかい?」
「そうだ、お前は私を倒した。 そして大いなるお方の力を宿している。 私はお前に従おう」
(何かおかしな話しになってきたぞ)
「断る!」
「何故だ。 これは大いなるお方の意志だ」
「俺は大いなるお方は知らないし、そんなデカイ図体の奴について来られても困る」
「それは大丈夫だ。 小さくなることはできる」
「それでも、嫌だ」
「何故だ。 私はもう決めたのだ。 お前が断ってもついていくぞ」
グリムは魔獣の目を見たが、決意は固そうだった。
「ふう、分かったよ。 好きにしろ」
「そうする」
「じゃあ、お前を何て呼べば良い?」
「名前は無い。 お前がつけてくれ」
「じゃあ、グレイブだ。 俺はグリムだ」
「グレイブ、グリム・・・」
「さあ、じゃあグレイブ、早速だがアレを追って行こうか」
「分かった。 私の背中に乗ってくれ」
グレイブはグリムが背中に乗ると、翼を広げた。 そして夕焼けの空を、宇宙船が飛び去った方へ飛んで行った。




