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13-10 遺跡の守護獣(1)

 魔獣は怒り狂い、丘への攻撃を繰り返した。 宇宙船の中にいても振動は伝わった。

「攻撃を受けています。 現在は防御シールドを張ることができません。 船体損傷確率38パーセントです」 AIのエマが言った。

「飛行できるようになるまで、後どれくらい?」ポーラがきいた。

「現在、自己診断中。 動力系異常なし。 ただし余熱に8分かかります。 飛行制御系の駆動が円滑ではありません。 実際に飛行できるまで12分です」

「さすがに4百年も動いてなかったから、時間がかかると言うことね」

「どうする?」とクオール。

「今のままでは、何もできないわ。 待つしかできない」

「でも、このままでは飛び立つ前に破壊される可能性があるのだろう?」とグリム。

「そうね、船体が持つことを神に祈るしかないわ」

「俺が魔獣の関心を引きつける。 十数分間、攻撃を逸らせば良いのだろう?」

「無茶よ! 今までの魔獣とは比べものにならないわ」

「だが、ここで奴にこれを破壊されたら、お終いだろう」 そう言うとグリムは宇宙船の外へ出た。


 丘の上へ出ると、グリムは驚愕した。 そこにいたのは肩までの高さが10メートルはあろうかという四つ足の魔獣だった。 その背中には巨大な翼を持っていた。

(何だこいつは、ドラゴンか? いや違う。 ドラゴンというよりはグリフィンか?)

 頭は狼の様な獣の顔だった。 全身黒い毛に覆われて、その毛は艶々と輝いていた。


 魔獣は丘の上で地団駄を踏んでいた。 斜面の土盛りが崩れ、爆発したかのように土や木々が飛び散っていた。 グリムは魔獣にできる限り近づくと、魔獣に向って叫んだ。

「止めろ!!」 グリムが叫ぶと、魔獣の動きが一瞬止まった。 魔獣はグリムの方を見た。 グリムを金色の目で睨みつけると、グリムを踏みつけようとした。

(やはり、こいつには効かないか) グリムは素早く横に跳ぶと、魔獣の前脚から逃れた。 グリムは近くにあった拳大の石を拾うと、魔獣の顔めがけて思いっきり投げつけた。 アクロの力で加速させたため、機械で撃ちだしたかのような勢いで石は飛び、魔獣の左の頬に当った。 グリムはもちろんこの程度で魔獣にダメージを与えられるとは考えていなかった。 しかし、魔獣を怒らせるには十分だった。


 魔獣はグリムの方を向くと、口から炎を吐き出した。 グリムは空中に跳び上がり、炎を避けた。 グリムがいた一帯が一瞬で燃え上がった。 それからはグリムは一カ所に留まらず、絶えず動き回りながら時折魔獣に石を投げつけた。


 宇宙船の内部

 「エマ、外の様子が見たいのだけれど」 ポーラがAIに言った。

「かしこまりました。 観測用ドローンを飛ばします」

 丘の地面から筒のような物が伸びてきて、その中からカブト虫ほどの大きさのドローンが飛び立った。 そしてそこから送られてくる映像が、正面の大きなディスプレイに映し出された。 そこには巨大な魔獣が暴れている姿とその周辺を跳びはねているグリムの姿があった。

「こいつだ。 前の部隊が壊滅させられたのは・・・」とクオールが悔しそうに言った。 リオンやキラン達は魔獣にももちろん驚いたが、それを驚異的な身体能力で翻弄しているグリムに更に驚いた。


「エマ、あと何分?」

「あと3分16秒です」

(グリム、あと少しよ。 頑張って)


 グリムは速度を上げた。 魔獣は巨体の割に動きが素早く、グリムに対する攻撃がより正確になってきたからだ。

(あとどれくらいだ? さすがにきつくなってきたぞ)


「飛行準備完了」エマが言った。

「発進せよ!」ポーラは命じた。

「発進します」 AIがそう言うと、船体が振動し始めた。 そして宇宙船がゆっくりと動き始めた。 グリムは驚いた。 地面が揺れ始めたかと思うと、丘が盛り上がり、土が斜面を崩れ落ちていった。 グリムは降りかかる土砂や木々を避けながら、そこに現れた黒い巨大な物体に圧倒された。 それは巨大なエイの様な形をしていた。


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