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3-2 大いなる力(2)

 ゲリオルの家

 グリムは床にあぐらをかくと目をつむり、精神を集中した。

「今はどんな感じだ?」ゲリオルが聞いた。

「音がやたらうるさいです。 外の虫の這い回る音まで聞こえます」 グリムは頭痛に悩まされていた。 睡眠不足のせいかもと自分では思っていたが、夜中に家の近くを通る獣の足音や風の音で何度も目を覚ますのだった。

「そうか。 まずは目を開けて。 目の前にある小枝で“♯”の形に組み上げていくのだ」 グリムは意味が分からなかったが、言われるとおり小枝を組み上げていった。 小枝は一様の太さではないため、上になっていくにつれ傾いてきて、バランスを取るのが難しくなっていった。 グリムは集中して取り組んだ。

「今度はどうだ? まだ音がうるさいか?」

「えっ、そう言えば音が気になりませんでした」 そう言われて、また音を意識してしまったのか急にまた音が耳に入り始めた。

「つまりそう言うことだ。 音に敏感になったために、より音に気を集中させてしまい、本来気にしなくて良い音まで拾うようになっているのだ。 他の事に集中することによって、感度の入り切りを意識的にできるようにするのだ。 もう一度やってみろ」 グリムは再び小枝を積み始めた。


 10日後、エリオラの家

 グリムの頭痛と耳鳴りはほとんど治まっていた。 薬草と意識の切り替えにより、体の五感の感度を切り替えることが可能になってきたのだった。 グリムが畑を耕していると、ゼオルがやって来た。


「やあ、調子はどうだい?」

「ああ、大分落ち着いてきたよ」

「そうか。 なら、少し付き合ってくれないか」

「どこへ? 狩りにいくのか?」 ゼオルは弓と矢筒を持っていた。

「そうではないが、お前に弓を教えようと思ってな」

「わかった。 ありがとう」


 裏山の斜面

 「弓はやったことがあるかい?」

「やったことは無い。 たぶん・・・」

 ゼオルは20メートルほど離れた所にあった、掘り起こした切り株を横にして的にした。 弓に矢をつがえ鍛えられた体で弦を引くと、的にめがけて放った。 “ヒュン”という音とともに飛んだ矢は切り株の真ん中に刺さった。

「うまいもんだ」とグリム。

「大したことではない。 これくらいの距離ではな。 やってみるか?」

 グリムはゼオルに教わりながら、矢を放った。 矢は的を大きく右に外れて地面に刺さった。 ゼオルは腹を押さえながら笑った。 グリムはその後も何度やってもまともに的に当たらなかった。 ゼオルは的との間にもう一つの切り株を立てた。


 「いいか、良く見てろよ。 アクロの力を得た者はこんなこともできる」 そう言うとゼオルは矢を放った。 すると、矢は前方の切り株を右にそれたかと思うと急に軌道を左に変え、後ろの切り株に突き刺さった。

「何だって!」グリムは驚いた。

「やってみるんだ」

「俺が? まともに狙っても当たらないのに、できる訳がない」

「そうかな」 グリムは言われるままに弦を引いた。

「いいか、前の切り株ではなく奥の切り株に矢が当たるイメージを頭に描くんだ。 そして“当たれ!”と強く念じるんだ」 グリムは言われたように、強く念じて矢を放った。 放たれた矢は、前の切り株を通り過ぎた所で急に左にカーブすると、的の端にかろうじて当たった。

「えっ!」 グリムは自分で驚いて声を上げた。

「出来たじゃないか。 驚いたな、1発目で成功させるなんて・・・」 ゼオルは驚いたが、顎に手を当てて少し考えるようにしていたが、やがて弓を取ると言った。

「次はこれだ」 そう言うと、今度は脇にあった岩を狙って矢を放った。 すると次の瞬間、矢は“ガツッ!”という音とともに岩に突き刺さった。

「すごい!」 グリムが驚いていると、ゼオルが弓を手渡した。

「今度はお前だ。 矢が岩を突き通すイメージを持つのだ」

「無理だ」

「強く念じるのだ」


 グリムは矢が岩を貫くイメージをしながら、弦を強く引き絞り矢を放った。 放たれた矢は、ゼオルの矢の右に当たると、突き刺さるのではなく岩自体を破壊した。

「何だと!」 ゼオルの口が開いたままだった。

「恐れ入った。 お前は天才じゃないか? 俺の予想以上だ」

「信じられない・・・」

「良し! これで決まりだ」

「何がだ?」

「20日後に、今年成人を迎えた10人の戦士認定の試験がある。 それにグリムも受けてもらう」

「戦士?」

「ああ、お前は村の住人としては認められたが、戦士としてはまだ認められていない。 お前は十分戦士としての能力はあるはずだ」

「それに弓が必要なのか」

「ああ、戦士として認められるには、三種目の試験を受けねばならない」

「試験?」

「一つ目は相撲だ。 昨年度の優勝者と戦ってもらう。 これはどの程度戦えるかを見るためのもので、勝つ必要はない。 二つ目は弓だ。 距離はさっきの的よりは遠くなるが、10本中7本以上的に当てられなければ、失格となる。 最後は川の上の絶壁にかけられたロープを渡ってもらう。 これも落ちてもかまわないが、怖じ気づいて一歩も渡れなかったら失格だ」

「なるほど」

「と言うわけで、弓の練習だけはしておけ」

「分かった」


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