13-6 遺跡への道(4)
翌日からグリム達は、魔獣との遭遇の機会が増えた。
「東から近づいて来る。 3体だ。 それと北西からも1体、東からのとは別種だ」
「どうする?」とクオール。
「西に迂回する」
午前中は何とか回避し続けることができた。 しかし北に向うにつれて魔獣の数も種類も多くなってきた。
「クソッ、四方から迫って来る」
「戦うのか?」
「やむを得ない。 しかしまともには戦わない。 まず北東に移動する」
グリム達は北東の小高い丘を目指した。 魔獣の数が少ないせいもあったが、迎え討つにはそこが一番適していると判断したからだった。 グリム達が丘に到着すると、現れたのは巨大な赤いヒルの様な魔獣だった。 その数十数匹で丘を囲むように迫ってきた。
「攻撃開始!」 グリムは命じた。 兵達は丘を芋虫のように蠢動しながら上ってくる魔獣に矢を放った。 矢は魔獣の体に刺さったが、少し血が出る程度で大きなダメージを与えた様子は見えなかった。
クオールは剣で切り裂いたが、その柔らかい体は見ている間に傷口が塞がっていった。
「私が行く!」 キランがそう言うと、槍を持って魔獣の前に立ちふさがった。 キランが槍を構えると、槍先から炎が噴きだした。 その赤い爆炎が魔獣を襲うと、魔獣は苦しそうにのたうち回った。
「炎は有効そうだ」とクオール。 そしてそれを見ていた兵士が二人、前に出ると掌から炎を噴き出して攻撃を加えた。
グリムは反対側から上ってくる魔獣に対して、頭をめがけて矢を放った。 脳があると思われる辺りに当ったのだが、それでも魔獣は止まらなかった。
(クソッ、場所が違うのか?) グリムは弓を置くと、手を胸の前で合わせるような動きをした。 すると魔獣の頭が急にひしゃげてつぶれた。 血を噴きだし地面に横たわると、そのまま動かなくなった。 それを隣で見ていた兵士が驚いた顔をした。
それから10分ほどすると、魔獣はすべて倒す事ができた。
「ふう、何とか倒す事ができたな」 クオールが近づいて来ると言った。
「だが油断はできない。 まだ近くには他の奴らもいる」
「どうする?」
「今日はこのまま、ここで野営する」 グリムは少し考えてから言った。 このまま進めば他の魔獣に遭遇する可能性が高いし、ちょうど森に入った頃に日が暮れてくる。 森の中で襲われるよりもここの方が、迎撃しやすいと考えたのだった。
その夜も早めに食事を済ませると、火を消してそれぞれが身を潜めるように、体を休ませた。 誰もが魔獣に気付かれませんようにと祈った。
「起きろ、お客さんだ」グリムは小声で声をかけた。 兵達は静かに体を起こすと、闇に目を懲らした。 昼間倒した魔獣達の周りに、赤い目をした黒い塊は幾つもうごめいていた。 魔獣の体を貪り食っているのだろう。
「どんなやつだ?」クオールが聞いた。
「堅い殻に覆われた、前腕に大きなはさみを持ったカニの様なヤツだ」 グリムにはハッキリ見ることができた。
「襲って来そうか?」
「いや、今のところ目の前の餌に夢中のようだ。 だがそれに飽きたらどうか分からないな」
「そうか。 皆、気を抜くな」クオールは兵達に命じた。
その夜は結局、カニの魔獣は襲って来なかった。 しかしその後にも別の魔獣が近づいて来たため、一行は十分に体を休めることができなかった。 そしてそれは次第に兵士達に疲労として蓄積し、悪影響を及ぼし始めた。




