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13-5 遺跡への道(3)

 5体の蜘蛛の魔獣は、グリム達のいる丘の崖側から斜面側に回ってきた。 兵達は弓に矢をつがえた。

「攻撃するか?」とクオール。

「まだだ、興味を持っただけかも知れない」 グリムは極力戦闘には持って行きたくなかった。 このまま魔獣が立ち去ってくれればそれにこしたことはない。 蜘蛛の様な魔獣達は斜面に近づいて来た。 闇の中に赤い目だけが不気味にうごめいていた。 それを見ていたポーラとバイルは恐怖に震え、歯がカチカチと鳴った。


 魔獣と兵士達の距離が30メートルほどに迫った。 魔獣の方もグリム達を警戒し、ゆっくりと迫ってきた。 長い足が草地ですれる音が次第に大きくなってきた。

「うっ、うわあー!」 一人の兵士が恐怖に耐えきれず、先頭の魔獣に矢を放った。

「バ、バカ!」

 魔獣は体に矢を受けると、「キキーッ!」と悲鳴の様な声を上げた。 そして更に目を赤く輝かせると、魔獣が突進してきた。 それにつられて他の4体の魔獣も速度を上げた。

「攻撃しろ!」 グリムは命じた。 それを合図に兵達が一斉に矢を放った。 先頭の魔獣は体に何本もの矢を受けながらも突進は止まらず、明らかにこちらを攻撃しようとしていた。


「クッ、弓を貸せ!」 グリムは近くにいた兵士から弓をもぎ取ると、矢をつがえた。 そして良く狙いもせずに矢をすかさず放った。 矢は魔獣の頭の赤い目の辺りに深々と刺さった。 魔獣は一瞬動きが止まり、体を痙攣させたかと思うと、急に力が抜けるように地面に体が落ちて、そのまま動かなくなった。


 クオールが驚いたようにグリムの顔を見た。

「気を抜くな、次が来るぞ!」 グリムは何か言いたそうなクオールにはかまわず、兵達に怒鳴った。 後ろに続いた2体の魔獣は倒れた個体の脇を通り、猛スピードで迫った。 兵達はまた矢を次々に浴びせたが、魔獣は怯まず突進してきた。 グリムはまた矢をつがえると、魔獣の赤い目を狙って矢を放った。 その矢は赤い目の一つを貫き、魔獣はまた倒れた。


 もう一体が更に迫ると、クオールは剣を抜いて魔獣に向って走った。 魔獣はクオールを見つけると、剣の様に鋭くなっている前脚を振り上げ、襲いかかった。 クオールはそれに動じること無く、襲って来た前脚をかわすとその脚を切り落とした。 更に返す剣で反対の脚も切り落とした。

「ギギーッ!」 魔獣が大きな声を上げた。 クオールは魔獣が怯んだ隙に空中に飛び上がると、剣を両手で振りかぶり魔獣の頭を二つにたたき割った。 魔獣の頭から、青い血が吹きだした。 その魔獣もそこで倒れ、目から赤い光が消え失せた。 その後ろに続いていた2体の魔獣はそれを見て動きを止めた。 そして向きを変えると、足早に遠ざかっていった。


「どうやら諦めたようだな」 グリムは誰に言うともなく言った。 グリムは用心しながら死んだ魔獣を確認した。 3体とも確実に死んでいた。 その長い脚は固い甲殻でできており、まるで鋼鉄のようだった。 しかしクオールが切った脚は、ナイフで切ったかのような鋭い断面をしていた。

(普通の剣ではこれは切れないだろう。 アクロの力か・・・)

「あんなに弓が上手だとは思わなかったぞ」 クオールが近づいて来て言った。

「あれは大体で射た。 あの赤い目に意識を集中して当てただけだ」

「アクロ使いだとは知っていたが、あそこまでやるとはな」

「まあ、とにかく全員無事で良かった」

「だが油断はできないぞ。 他の奴らがやって来る可能性が高い」

「ああ、そうだな。 こいつ等の血の匂いに引き寄せられるだろうな」


 それから2時間ほどして、別の魔獣が集まって来た。 村長が言っていた狼の様な魔獣だった。 8頭ほどの群れだったが、それぞれの体が牛ほどの大きさがあった。 蜘蛛のような魔獣の死骸を見つけると、体をひっくり返し柔らかな腹の方から食い始めた。 あの鋼鉄のような脚もバリバリ音を立てて噛み砕いた。


 グリム達はその様子を警戒しながら見ていた。 狼の魔獣達は、グリム達の存在を当然知っていたが、当面餌にありつけているせいか、襲って来る気配はなかった。 それから一時間ほどして、食事が済むと秘かに姿を消していった。


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