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13-4 遺跡への道(2)

 遺跡までは直線距離であと約80キロ、悪路を考慮しても魔獣の襲撃さえなければ5日ほどで着けるはずである。 午後にグリムは異変を感じた。


「いるぞ。 2キロほど北東に1体、西の方角にも動きを感じる」

「どうする?」とクオール。

「迂回する。 極力無駄な戦いは避ける。 皆、大きな音は立てるな!」 それに対して兵士の中には不満を持つ者もいた。

「魔獣など成敗すればよいのに。 アルクオンの兵は魔獣なんぞ恐れぬ」 兵士の一人がわざとグリムに聞こえるように言った。 グリムはため息をついた。

(ああいう輩が、最初に命を落とすのだ) グリムは聞こえないふりをして、無視した。 やがて思い知るだろうと思っていたからだ。


 村を出発した日、結局日中グリム達は魔獣に襲われることは無かった。 グリムが早めに魔獣の位置を察知し、魔獣との遭遇を回避してきたからだ。

(問題はこれからだ。 夜間に活動が活発になる魔獣がいるはずだ)

「ここで野営をする。 暗くなる前に夕食を済ませるんだ」 グリムは防御に適した場所を見つけると、皆に言った。 その場所は小高い丘になっており、さらに三方が切り立った崖になっていた。

「ここは良くない。 魔獣に攻められたら逃げ場が無いぞ」 クオールは反対した。

「逆だ。 ここが最も防御に適している。 まず風が斜面から崖の方に流れている。 俺達の匂いに気付いた魔獣が近づいて来ても、崖が邪魔をするしこちらからは丸見えだ。 魔獣はこの斜面の方からしか攻めて来られない。 俺達は一方の防御に集中すれば良い」

「なるほど。 グリムの言うとおりだ」とキラン。

「分かった、隊長はあんただ」 クオールは完全に納得はしていない様子だったが、それ以上反対はしなかった。 しかしその後も、火を焚くかどうかでもう一もめあった。 グリムは夕食の後、火を焚くことを許さなかった。


「火を燃やさないなんて、あり得ません。 魔獣は火を恐れて近づいて来ないはずです」多くの兵達が、そう言って抗議した。

「確かに大抵の獣は火を恐れる。 しかし火を恐れない魔獣もいる。 火を焚けばかえってここにいることを教えてしまうことになる」 グリムはムスガルのことを思い出した。

「グリム将軍に従うのだ。 確かに前の作戦では、火を焚いたにもかかわらず、夜間に魔獣に襲われた」 クオールはこの件についてはグリムに同意した。


 日付が変わろうとする頃、グリムは異変を察知して目を覚ました。 グリムは周りの兵達の肩をそっと叩いた。 兵達は装備を解かずすぐに行動できる体制で仮眠していたのだった。

「来るぞ、近づいている。 戦闘準備をとれ」 グリムは小声で言った。

「何も見えないぞ」 薄闇の中、目を懲らしてもうごめくものを発見できずに、クオールが言った。

「北から来る。 複数だ。 距離は2キロくらいだ」

「どんなヤツか分かるか?」

「姿、形までは分からないが、動きは軽やかだ。 すぐにここまでくるぞ」


 兵達はそれぞれ、弓や槍、剣を握りしめ魔獣の襲撃に備えた。 ポーラとバイルは後ろに下がり、ムタ達が暴れない様に気をつけた。


 それから15分ぐらいすると、崖の北側に5体の黒い塊が向ってくるのが見えた。 それは近づいて来るにつれ、姿が分かるようになった。 その姿は黒いたわしに8本の長い足の生えた蜘蛛のような魔獣だった。 大きさはたわしの部分だけでも象ぐらいはあると思われた。 4つの目が赤く不気味に光り輝いていた。 5体の魔獣は迷う様子もなくこちらに近づいて来た。


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