12-6 七将との戦い(2)
グリム達を兵士達が取り囲んだとき、誰かが叫んだ。
「女王様だ。 女王様がおいでになられたぞ!」 それを聞いて兵達が騒然となった。 練兵場の入り口に、馬に乗った近衛兵に護られた女王の車が到着したのが見えた。 女王は長い髪を後ろでまとめ、胸にフリルのついた白シャツと足下につれて細くなる紺のパンツという出で立ちだった。 玉座で見る女王とまた雰囲気が違った。 アリエノーラはお供の者に大きな白い日傘を差されながら、兵士達の輪の方へ歩いて来た。 兵士達は一斉にその場に跪いた。
「陛下、どうしてこのような場所へおいでくださったのでしょうか」 クオールは跪いたまま尋ねた。
「ここに来れば、面白いものが見られると思って。 クオール、私に内緒でやろうと思っても、お見通しですよ」
「はっ、申し訳ございません」
「謝らなくて良いわ。 それより、まだ始まっていないのでしょうね」
「はい、ちょうどこれからです」
「分かりました。 それでは始めなさい」 そう言うと、イスを持ってこさせた。
グリムはスエルとキランの二人の将軍と対峙した。 二人が少し離れて立ち、グリムと三角形を成すようなかたちだ。 二人とも鎧を着用し、スエルは二本の木製の戦斧、キランは長い棒の先に布を巻き付けた模擬槍を持っていた。 それに対して、グリムは軽装に木剣という出で立ちだった。 グリムは意識を集中させた。 感覚が研ぎ澄まされ、銀髪が静かに逆立ち始めた。
「なめすぎだ。 死んでも悪く思うなよ」とスエルは戦斧を構えた。
「始め!」 クオールが試合の開始を告げた。
先に動いたのはグリムだった。 突きを繰り出そうとするキランに対して、素早く剣を投げつけた。 キランは一瞬驚いたが、冷静に槍で剣を叩き落とした。 その間にグリムはスエルの方に飛び込んでいった。 スエルは豪腕で斧を叩きつけてきたが、グリムにはそんな大振りはスローモーションを見ているようで、容易く懐に潜り込んだ。 素早くスエルの右腕をつかむと、背負い投げで投げた。 グリムはスエルを投げる瞬間軸足を回転させ、キランの方へ投げた。 キランはとっさに体を捌いてスエルの体をかわしたが、その一瞬グリムの姿を見失った。 そして次の瞬間、キランの顔面にはグリムの右の拳が迫っていた。 グリムの拳がキランの顔面に炸裂した。 キランはそのまま後方へ倒れた。
「オオーッ!」 周りの兵士達から、驚きのどよめきが起こった。 一連の出来事はほんの一瞬のことだった。 グリムの動きが速くて、何が起きたのか良く理解出来ない兵士が多かった。
スエルもキランも素早く立ち上がった。
(さすがにこの程度では終わらないか。 キランも殴られる瞬間、顔をひねってダメージを逃がしやがった)
さすがに二人ともただ者では無かった。 グリムの動きに対応し始めたのだ。 スエルは攻撃と同時に、グリムの飛び込みを予測して、左手で待ち構えていた。 グリムは容易に飛び込めなくなった。 更に右からはキランの槍が迫ってきていた。 キランの連続突きをかろうじてかわしていたが、つかまるのも時間の問題だった。 グリムはスエルの左に回り込み、キランとの間にスエルを挟もうとした。 しかしスエルもその意図は理解し、すぐに体を移動しキランの攻撃を妨げなかった。
(まずいな。 仕方がない、こちらも被弾覚悟で行くしか無いな)
グリムは一旦二人と距離を取り、呼吸を整えた。
「スエル、来るぞ!」とキラン。
「来てみろ、ぶちのめす!」
グリムは右手に持っていた小石を、指で弾いた。 その小石がキランの顔に当り、一瞬怯んだ隙に、キランの槍をギリギリでかわし、前に飛び込んだ。 左腕と脇で槍をつかむと、そのまま跳び上がり右足でキランの側頭部を蹴った。 しかしキランは寸前で槍を手放し、蹴りを回避した。 グリムは地面を転がりながらスエルの前に行くと、一気にスエルに向って飛び出した。 スエルはそれを左の戦斧で叩き落とそうとした。 グリムは両腕を交差させると、スエルの前腕を受け止めた。 スエルは驚いた。 普通ならそんな者がいても、スエルの丸太のような豪腕を止められる者などいないからである。 グリムはスエルの攻撃を受け止めると、そのまま腕をとり肩に担ぐような格好でスエルの肘を極めた。 スエルは苦しそうな顔をしたが、降参することはしなかった。
(ちっ、仕方が無い) グリムは支点をずらし、一気に力を加えた。 “ボキッ!”という大きな音とともにスエルの腕が折れた。
「グアッ!」 スエルは声を上げたが、折れた腕を気にせず残った右腕で攻撃してきた。 グリムは戦斧をかいくぐりスエルの懐に入り込むと、渾身の左の掌底をスエルの胸に黒い鎧の上からみまった。 “ボコッ”という音とともに鎧が大きくへこんだかと思うとスエルの動きが止まり、膝から落ちて倒れた。
すかさずキランが、グリムの背後から突きを繰り出した。 グリムは回転しながら槍をかわすと、左手で柄をつかむとそのまま右の手刀でその柄を折った。 そしてそのまま一気にキランとの距離を詰めると、キランを投げ飛ばした。 グリムはそのまま倒れたキランにまたがると、右の拳を顔面に叩き込もうとした。
「それまで!」 クオールが試合を止めた。 グリムの拳は、キランの顔面の前で止まっていた。
兵士達は呆然としていた。 目の前の光景が信じられなかったのだ。 女王の拍手だけが響いた。
「クオール、これで異議は無いわね」
「はい・・・」 クオールもこれを見せられては、グリムの力を認めないわけにはいかなかった。
 




