12-5 七将との戦い(1)
その翌日、グリムはまた王宮に呼ばれた。 女王には会えなかったが、サウゲラから王命を伝えられた。
「ユーゴ・ケンシンに対して特命を与える。 更に命令遂行のための期間、将軍職を任ずる」
「何だって! 本気か、そもそもアルクオンの人間でもないのに・・・」
「我々とて不本意だ」 クオールが憮然としながら言った。
「確認するけど、断ると言うことは・・・・」
「出来るか! そんなことをすれば死刑だぞ」
「はあ~っ、どうしろって言うんだ」 グリムは頭を抱えた。
「これから、作戦について話し合う。 だがその前にあんたには、我々と戦ってもらう」とクオール。
「はあ?」
「軍において将軍は最高職だ。 王国内には伝統的に七人の将軍がいる。 臨時とはいえそれが八人になるのだ。 兵士達は納得しないだろう。 昨日あんたが言ったように、このままでは兵士は従わないだろう。 だからあんたは兵士達の前で力を示さなければならない」
「そう言うことか」 グリムは男の言うことがもっともなことだと思った。
(クソッ、どんどん話しが俺の望まない方へ行っているぞ)
「戦いは午後から練兵場で行なう。 この件は作戦自体が極秘だから、当然公にはされない」 クオールは有無を言わせない雰囲気で言った。
「分かった」 グリムはそう言うしか無かった。
練兵場へ向う車の中
リオンもこの展開には驚いて、興奮気味に言った。
「グリム、これはとんでもないことですよ。 クオール将軍は、我々と言っていました。 つまり相手は七将だと思われます。 しかも一人とは限らないでしょう」
「だろうな」
「現在王都にいる将軍は四人です。 いずれも武芸には秀でていて、特にクオール将軍は七将の中の筆頭で、強さは半端じゃないですよ。 あなたが強いことは知っていますが、たぶん銃は使えないでしょう」
「そうだろうな」グリムは憂鬱そうに言った。
(剣や槍で戦うとすれば、俺の勝てる確率は1%もないだろう。 無手に持ち込めれば、ある程度いい勝負にはなるかもしれないが・・・)
王都から一時間ほどで、郊外の練兵場に到着した。 そこには三千人ほどの兵が訓練を行なっていた。 グリム達が車を降りて兵達の方へ歩いていった。 グリムに対して兵達が好奇の目を向けた。 兵達の前にはクオールの他に三人の明らかに将軍と分かる者たちが立っていた。 その内の一人は女性だった。
四人はグリムの前にやって来た。
「この兵士達の見ている前で、我々と戦ってもらう。 もちろん得物は訓練用の木剣や槍だ」クオールが言った。
「一人ずつか? それとも四人一度にか?」
「何だと、我々を一度に相手すると言うのか? 身の程知らずめ!」 黒い鎧を着けた大男が怒鳴った。
「スエル、まあ待て。 そいつのペースに乗せられるな」 緑の鎧を着た、長身の男が言った。
「俺としては、やる前に決めごとはハッキリしておきたいだけだ。 後から次々と来られるのはおっくうなのでな。 四人ともやるなら、一度に相手した方がいい。 戦場じゃ順番を待ってはくれないのでな」
「なるほど、それじゃあやるのは二人だ。 一人ずつな」
「二人一度にだ。 それとも二人一度にやられたら、兵達の前で面目が立たないか?」
「どこまで我々を愚弄するの! このカーセリアル人は」 大柄の女が言った。
「マリアも熱くなるな。 それがそいつの作戦だ」 また緑の男が言った。
(まずいな、この男だけが俺の作戦を見抜いている)
「どうでもいいが、誰が相手してくれるんだい?」
「私が相手しよう」緑の男が言った。
「俺もやるぞ! ぶちのめしてやる!」 スエルと呼ばれた、黒の大男だった。
「いいだろう。 ではスエルとキランで決まりだ」とクオール。
「勝敗はどうして決める?」
「動けなくなるか、明らかに致命的な打撃を受けたと見なされた場合だ。 審判は私がやる」
「くれぐれも公平に頼むよ。 それから、アクロの力は使ってもいいのか?」
「かまわない。 ただし相手を死に追いやるのは無しだ」
「分かった」
「では体に合った鎧を着けて準備をしてくれ」
「いいや、このままでいい」 グリムは慣れない鎧を着けて、思うように動けなくなるのを心配したのだ。
「何だって! 貴様、死ぬぞ!」