12-4 女王の提案
王宮、女王の執務室
アリエノーラの前に二人の男が立っていた。
「済みません、アリエノーラ様。 作戦は失敗です」 立派な体つきの武人とおぼしき男が言った。
「そう、原因は何?」
「魔獣です。 あの辺りは魔獣の巣窟になっています。 しかも遺跡の側には最も厄介な奴が巣を作っています。 遺跡まで近寄ることも出来ませんでした」
「クオール、女王の七将の内三人も作戦に参加したのにか」サウゲラが言った。
「面目ございません」
「まずいわね。 何か策があるの?」
「・・・・・」クオールと呼ばれた男はうつむいた。 それを見たアリエノーラは宙を見つめるように、しばらく考え込んだ。
「私に考えがあります」
「どのような策でしょうか・・・」 サウゲラが不安そうな顔で聞いた。
「ユーゴを呼びなさい」
「まさか・・・」
「そう、まさかよ」
その日の午後、グリムは女王の前に呼ばれた。 グリムは壇下に控えた。
「ユーゴよ、カーセリアルの王になる決心はつきましたか?」
「いいえ、私に王になるつもりはございません。 そのような力量もございません」
「頑固な男よのう。 そなたはどうしたいのですか?」
「恐れながら女王陛下、私は一日も早く捕らえられた娘を救出したく、ここを辞去したいと考えております」
「そなたの気持ちは分からないでもないが、今はまだダメです」
「何故でしょう?」
「そなたの力を必要としているのです。 そなたをここに呼んだのは、力を貸して欲しいからです」
「どのようなことでしょうか?」 グリムは訝しみながら尋ねた。
「そう構えるな。 じつはここから北西にあるアルカラという都市の近くに、ある遺跡があります。 そこの発掘調査をしたいのですが、なかなか思うように進んでいません。 そなたに協力してほしいのです」
「私は学者でも、土木技師でもございません。 私がお役に立てるとは思えませんが」
「ほほほ、そなたに穴を掘れとは申しておりません。 問題があってそこまでたどり着けないのです」
「問題とは何でしょうか?」 グリムの顔は更に険しくなった。
「魔獣です。 その一帯は魔獣達の巣窟になっているのです」
(オイオイ、俺に何をさせようと言うんだ? 魔獣退治をさせようと言うのか?)
「恐れながら、女王様には精強な兵達が多数おられるはずです。 私などがどれ程の役に立つでしょうか?」
「実はこれまでに二度兵を送っているのです。 ですがいずれも失敗しているのです」
「ははは、冗談でしょう? 兵を送ってダメなものを私に何が出来ると言われるのですか?」
「控えよ! 無礼者」とサウゲラ。
「良い、普通はそう考えるのも無理はありません。 そなたには策を考えて欲しいのです。 同じ者が同じ発想ではまた失敗すると思うのです。 そなたは我が国の兵士では無く、違う発想をするのではないかと思っています」
「なるほど、それであれば分かりますが、一つ確認しておきたい。 案を考えるだけで私は参加しなくてもよろしいのですね」
「いいえ、そなたにも参加してもらいます。 何故なら状況によって臨機応変に対応する必要が出てくると思われるからです」
「なるほど・・・・」グリムは少し考えていたが、やがて言った。
「やはりお断りいたします」
「何故ですか?」
「私がいくら策を考えたとしても、成功しないでしょう」
「何故です」
「それは、実行されるこちらの兵士達が、私の言うことなんかに従わないからです。 魔獣が相手となれば、こちらの予想しない行動も出てくると考えられます。 その時に素早く対応が出来なければ、作戦全体が瓦解してしまいます」
「なるほど、もっともなことです。 ならばそなたに今回の作戦の全権を与えましょう。 そなたの命令に背く者は死刑にします」
「何ですと!」グリムと同時にサウゲラとその隣に立っていた男も叫んだ。
「その代わり、作戦を必ず成功させなさい。 これには王国の命運がかかっているのです」
「・・・・・」グリムは声が出なかった。
「アリエノーラ様、それはあまりにも・・・」とサウゲラ。
「もう決めた事です。 ユーゴよこの作戦が成功したら、あなたの希望についても考えましょう」 そう言うと、女王は立ち上がり出ていった。 その後をサウゲラとクオールが慌てて追った。
グリムは呆然と立ち尽くしていた。