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12-3 グリムの焦り

 グリムとカエンは王都マリウルに滞在することになった。 王宮の近くの迎賓館に部屋を与えられ、外部への出入りも自由だった。 ただし、リオンからは今の服装だと目立ち過ぎるので、王都の人々が一般的に着用するような衣服を用意された。 数日の間、グリム達はリオンの案内で王都の主な観光地や施設を見て回った。 カーセリアルの人間からすれば、アルクオンの人間は原始的な生活をおくっており、下等な文明しか持っていないと思いがちだが、それはあらためて誤りだとグリムは思った。 人々の生活は、確かにカーセリアルの人々からすれば質素と思えるかも知れないが、一つ一つが良く考えられており、無駄や環境に与える負荷が少なくなるような仕組みになっていた。 多少の不便さはあるかも知れないが、決して生活レベルが低いと言うことは無かった。


 ある日、リオンと一緒に昼食をとっているときに、グリムはずっと抱いていた疑問をリオンにぶつけた。


「女王の話しからすれば、俺は大分前からあんたらに監視されていたように聞こえたが、いつからだ?」 グリムは木製のカップをテーブルに置いた。 それに対してリオンは木製のスプーンを口の持って行くのをやめて皿にもどし、少し考えるような顔をしてから言った。

「そうですね、あなたがトキオの街に暮らしていた時からです。 私はカーセリアルの潜入調査を行なっていたのですが、軍の情報であなたが前線の指揮所を潰したらしいという情報を得て興味を持ったのです。 私は女王に報告を上げると、女王が興味を持たれ、あなたを調査・監視せよと命じられたのです」 リオンはパンをちぎって口に入れた。

「そんなに前からか。 しかしそれでは、いくらあんたの監視がうまいといっても気付きそうだがな」 グリムは自分の危機回避能力に自信がなくなった。

「それが私のアクロの力です。 人々には私が見えていない」

「はは、まさか透明人間になれるとか言わないよな」

「それはありませんよ。 仮に本当に透明人間になれたとしても、姿を消すことはできませんよ。 透明のグラスに透明の水を注いだからといっても、見えなくなることはありませんよね」

「光の反射と屈折率の問題ね」とカエン。

「その通りです。 透明なものであっても、表面で光を反射しますし、光が通過するときに屈折が起きるからです」

「なるほど」

「私の場合は、完全に気配を消せます。 あなたは街中で何千人もの人達とすれ違ったときに、その一人一人の顔を覚えていますか?」

「無理ね」

「そうでしょう。 砂利道を歩いたときに、大きな石があれば目立って、脳が危険を予測し回避するように指令を出すでしょう。 でも砂利の一つ一つがどこにあってどんな形をしていたかなんて覚えてはいないですよね。 それと一緒です。 私はあなた方からは見えているのに見えていないのです」

「なるほど」 そう言いながら、グリムは研究所脱出のことを思い出した。

「リオン、クレアル社の研究所の事件があったとき、あんた現場にいなかったか?」 グリムがそう尋ねると、リオンはそれには応えず、意味深に笑った。

(やはりこいつだ、あの時木の上から助けてくれたのは)

「あんたには二度助けられたと言うことか。 礼を言う」

「どういたしまして。 私はあなたを知れば知るほど、あなたが好きになったのです。 だから、あなたが危機に陥ったとき、頭よりも先に体が動いていたのです」

「ありがとう。 あんたが俺達の味方だと言うことは分かっている。 だからお願いしたい、俺達を解放してくれるように女王に頼んでくれ。 俺達はセシールを救出しに行きたいんだ」

「それは分かっています。 焦らないでください、機会は必ず来ます」

「セシールが孤独に泣いている姿を夢に見るんです。 のんびりしている時間はありません」とカエンが思い詰めた顔で言った。

「もう少し待ってください。 誰も女王に意見などできません。 女王の機嫌をそこねたら、それこそ逆効果です」

「分かった・・・」


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