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ーー◼️◼️回目の出会いーー


ねぇ。貴女は…ううん、今はそのままで良い。でもこれからは……ごめんね?纏まらないや。


でも、これだけは伝えておくね。

これから私たちは出逢う。そしてきっと辛い…すごく辛い決断を迫られることになる……

それでも、私は貴女とならーー



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



ぴぴぴ、と少し間の抜けた目覚まし時計の電子音が微睡んだわたしの鼓膜に強く響く。


「……っう…?」


まだはっきりしない淡い意識に、鳴り止まない電子音とカーテンの隙間から差し込む陽光が徐々に意識をクリアにしていく。


「…るっさぃ……」


腕を伸ばし目覚まし時計のスイッチをオフにし、のそのそと身体を起こしてそのまま窓を軽く開けた。

まだ4月の初め頃だからか少し冷たくて乾いた風が部屋を満たしていく。


「すー……はー……」


大きく深呼吸をし、意識の覚醒を促す。

大分意識が鮮明になってたところで妙な夢を見た事を思い出す。


「っ…」


思い出そうとした瞬間、頭の奥に鈍痛が走った。

意識が痛みに向いた途端鈍痛は消え、それきり何もなかった。



身支度を終え、トースターに食パンを無造作に入れプラスチックのいかにもチープな皿をテーブルに置き、その隣にこれもまた安っぽい容器に入ったマーガリンを置いたところでがしゃん、とトースターが気の抜けるような音でパンが焼けたことを伝えた。


「いただきます」


誰もいない閑散としたアパートメントの一室に何故だか目を巡らせながら雑にマーガリンを塗った食パンを齧る。

特段美味しくもなければ不味くもない。だがわたしはこの朝食を存外に気に入っている。

静かな朝に簡素な朝食、紅茶などあれば嬉しいのだが生憎と仕送りで生活しているわたしには決して安い物とは言えない。


そんな思考を巡らせながら食パンを完食した後、使った食器類をシンクに放り込み椅子に掛けてあった制服のブレザーに腕を通した。

春休み期間中しばらく着ていなかったそれはやはり少し窮屈でまるで初めて着た時のような少し不思議な気分になりながらもただ重いだけの玄関扉を開けわたしこと柳 翔子は学校へと向かうのだった。



登校中、わたしと同じ高校の制服を着た生徒を見かけた。おそらく新年度の始業式なだけあって皆少し早めに家を出ているのだろう。


ということはーー


「やーなぎ!」


背後からかわいらしい声が聞こえ、直後に軽い衝撃を背中に感じる。


「ツクモ、今日は珍しく早起きできたみたいだね」


そう言って振り向くと見慣れた栗色のさらさらとしたショートボブの少し低身長で童顔の幼なげな女の子が不服そうな顔をしてこちらを見上げていた。


「珍しく、は余計です〜!やなぎちゃんだって春休み中は一日中寝てたじゃない!」


「わたしはいいの。学校に遅刻したことなんてないからね」


わたしに額をつつかれかわいらしい唸り声をあげている彼女は月最 光。わたしの数少ない友人の一人だ。


「それより、早く行こうよ。今日はみんな早いから出遅れちゃうよ?」


わたしは先程のお返しと言う様にツクモの背中を軽く叩きながら見慣れた粗いアスファルトの通学路をツクモと他愛のない雑談を交わしながら歩いて行った。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「えー、諸君は今日から今までの学年から一つ上がり或いは高校生となる訳ですがーー」


わたしは久々に登校して早々に学校行事特有のうんざりするような回りくどく内容の掴めない話を聞かされていた。

まぁこの時間の無駄使いは組織の宿命の様な物と半ば受け入れてはいるのだが、やはりこの時間を歓迎会などに充てた方が生徒としては嬉しいというのは変わらない。


ともあれ、意味の無い思考に浸っているのも存外に退屈なもので気付かれない程度に周囲を見渡すとツクモが立ったまま寝るという半ば曲芸じみた斬新な睡眠方法を実践していた。

彼女は春休みの間仲間内でゲームなどして夜更かししては昼前に起きるような生活をしていたため、この校長と来賓の長話はあまりに眠たいのだろう。


そこまで考えたところでやっと一人目の話が終了した。


「はぁ」


意図せずため息が溢れるが無理もない。この3学期制の公立高校はそこそこの規模があり行事の際は変に来賓が多い。

つまりいつもの人数から考えるにこの長話をあと5人分聞かなければならないのだ。


わたしはそんな憂鬱な思考に浸りながら再度ため息を吐いた。



そんな憂鬱な始業式も無事終わり教室での自己紹介が行われていた。

幸いツクモとは同じクラスだったため今年も孤立せずに済みそうだとあまり社交的でないわたしの小さな不安材料が消えた事に少し上機嫌になりながらクラスメイトたちの自己紹介を聞き、そろそろ終盤に差し掛かった時だった。


「じゃ、入ってくれ」


担任教師が短く告げたその言葉にわたしは自分の隣、窓際の空いた机を意識する。


転校生


つまりはそういうことだろう。2年生になるこのタイミングで転校してくる生徒はこれといって珍しいものでもない。

そこまで考えたところで教室の学校特有のがたがたとやかましい扉が案の定、今にも壊れそうな音を立てながら開け入室した暫定転校生に目を向けた。

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