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9 街道旅1


 なんて僕は運が悪いんだ!

 どうして、たまたま入り込んだ家が、盗賊たちの隠れ家なんだ!

 しかも、なんでこのタイミングで、盗賊たちが帰ってくるんだ!

 そして、なんでこの人が、僕らの前に現れるんだ……


 *****


 王都を抜けてからは、二人で兄妹のフリをした。

 親を亡くし親戚の家に身を寄せるため二人で旅をする兄妹、という設定だ。

 親戚の家が商売をやっていて、雇ってもらえることになったんです、というと、みんな、頑張れよと言ってくれる。

 時々、通りかかった幌馬車に乗せてもらい、世間話をしながら先を急ぐ。


 目的地はあった。

 僕の兄さんが治める領土だ。そこならお祖父様もいるから、もしかすると匿ってもらえるかもしれない。逆に、すぐ連れ戻されるかもしれないけど、それは賭けだと思っていた。僕は、匿ってくれる方に賭けていた。

 ただ、距離がある。

 馬車で行っても5日かかる。歩いて行ったら1週間くらいかかるのかな。


 王都の近郊にある街道沿いの宿場町で、貴族服を売り払い、お金に変えた。

 そのお金で宿に泊まった。なるべく安くてボロい宿にした。

 あんまりお金を持ってきてなかった。


 なるべく多くの人と話をするようにした。そうして仲良くなると、おやつを貰えたり、お昼を一緒に食べられたりするから。ニーナが可愛いから、それは結構成功した。

 僕らは意外に生活力があると、二人で笑い合っていた。


 でも、二つ目の宿場町から出ると次の宿場町までの距離が結構あって、道の途中で薄暗くなってきてしまった。

 街道を行く人も少ないし馬車も通らない。

 もう今日は野宿するしかないかと思っていた。

 ニーナは野宿の経験はあるらしい。僕も野外生活は一通り仕込まれている。

 ただ、今日は雲行きが怪しかった。夜には雨になるかもしれない。

 先が長いから、濡れずに眠りたい。

 僕らは、朽ち果てそうな家を見つけた。


 今夜はここで寝ようと入り込む。


 ところが、その家は、外見とは裏腹に中には人が生活している気配があった。

 火を起こした後がある。あの痕跡は1日以内だ。

 まずい、早く出なきゃ。と思いつつ、見回すと、食糧が置いてあった。

 ニーナのお腹がグーっと鳴った。そう言えば、夜ご飯にありついていない。


「ちょっとだけ、もらっちゃおうか、余ってるかもしれないし」

 ニーナと頷き合い、食糧を漁ると、パンやチーズ、ハムにありつけた。


「持って逃げちゃおう」

 と振り向いた僕は、固まった。


「あれぇ。アレク。世界がグルグルしているよ……」

 ニーナが真っ赤な顔でフラフラしていた。


「え? ニーナ、どうした?」

 見ると、ワインの瓶が転がり、溢れている。

「……ニーナ、何飲んだの?」


「じゅーす……」

「違うよ、これ、ワインだよ!」

「えー、えへへ、わいん? そっかぁ」

 だ、だめだ、酔ってる!

 ニーナ、間違えてワイン飲んじゃったんだ!


 そのままニーナは倒れ込むように眠ってしまった。

 ピンチ!


 僕は、食べ物を脇において、ニーナを抱き抱える。

 ここから早く離れたほうがいい。

 建物から出ようとして、人の気配に気がついた。

 やばい。誰か来る。


 僕は、あたりを見回し、玄関以外の出口を探す。だめだ、窓からしか逃げられない。

 そんなことをしたら見つかってしまう。

 壊れかけのドアを通って、隣の部屋に駆け込む。ベットがある。ベットの下に隙間がある。人が入れる。


 ニーナを抱きかかえて、ベットの下に入り込んだ。

 息を潜める。ニーナが、いびきをかきませんように!


 ガタガタと音がしてたぶん玄関が開いた。

 男の声が聞こえる。

 僕は耳を澄ます。


 たぶん、4人いる。男ばかりだ。大人で、おじさん?

 喋り口調は荒い、ろくなやつじゃないかもしれない。

 ガハハと笑い合う声が聞こえる。

 ……何かを奪ってきたと、言った。


 そう、僕はこの家に入った時から、うすうす勘付いていた。

 雑なものの置き方。玄関脇に最小限にまとめられた荷物。縄。こんな朽ち果てそうな建物なのに、手慣れた火の始末。必要最小限にまとまった生活感。新鮮な食糧。

 こういう奴らには、身近に覚えがある。


 入った瞬間、もしやと思ったのだから、すぐに出るべきだった。

 食糧を探している場合じゃなかった。時間帯を考えると迂闊だった。

 後悔しても始まらないけど。


 男の一人が歩いてこちらの部屋に近づいてきた。

 緊張で身を硬くする。


 壊れかけのドアの隙間から見えた男は、僕が思っていた通りだった。

 男はこちらを見ずに、また戻って行った。


 やっぱり、ここは、盗賊の隠れ家だ!

 一時的に身を寄せているんだろう。


 ああ、僕はほんとに運が悪い!


 ニーナが酔って眠ってしまわなければ、竜巻で、難なく逃げられただろう。

 でも、戦えるのは、今、僕だけだ。


 あいつらは、たぶん剣を持っている。僕はナイフしかない。

 ナイフと剣でどう戦う? この場合、どうするんだったっけ?

 訓練でやったシミュレーションが頭をめぐる。

 そうか、相手から剣を奪えばいいんだ。


 奴らは四人しかいない。

 そして、こんなところを寝床にするってことは、雑魚だ。

 大丈夫、僕にだって、いけるはずだ。


 盗賊達の会話に耳を集中する。

 ハムやチーズの話になっている。僕がさっき置いたやつだ。

 僕らが入り込んだことに気づかれただろうか。


 僕はナイフを手にする。

 もしも、この部屋に奴らがきて、僕らに気付いたら、やる。

 ニーナはよく眠っている。

 ニーナを人質にとられたらおしまいだから、そうなる前にやる。


 僕は覚悟を決めた。 


 その時、玄関の方でガタガタと音がした。

 誰か入ってくる。

 これ以上、敵が増えるというのか。僕は耳を澄ます。


「おーい、誰かいますかー。うちの弟と妹が、ここにいるって聞いたんだけどぉ」


 ……僕がよく知っている人の声だった。

 こ、こ、これって、ピンチが増してないか?


「なんだ、テメェ」

 大きな声がする。

「ああ、俺か、通りすがりのものだけど、ちょっと、人を探してて」

「はあ? こんなところにいるわけないじゃねえか、ふざけるな! やっちまえ!」


 ドカドカと物音がする。たぶん戦っている、「うわっ」とか「ぎゃっ」とか声が聞こえる。


 そうだ、今のうちに逃げてしまおう。


 僕は、ニーナを抱え、そおぉっと、ベットがら出ようとして、顔を上げた。


「よう、久しぶり、アレクシス」

「うわぁっ」

 ニーナを抱えたまま、尻餅をつく。

「なんだよ、人をバケモノみたいに」

 その人は、ニヤニヤと僕を見下ろしていた。


「……お久しぶりです、マルクス」

 僕は、血の気がひいていた。



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