8 逃亡劇8
4回目の逃亡に失敗し、僕らは、作戦を変えることにした。
何回も海賊たちに連れ帰されてきた僕たちを、父さんは叱らなかった。
公爵家のみんなも何も言わない。
だから、僕が逃げようとしている相手は、国王だと理解した。
海賊たちも、風の魔法使いたちも、国王の手先だ。
それから3日は大人しくしていた。
ニーナは相変わらず王宮へ勉強しに行き、僕もニーナと一緒に馬車で王宮の図書館へ通った。
アンリとルノーは僕のことを心配してくれていた。ほんとにいいヤツらだ。
でも、僕は、国王選定儀式の話を二人とすることは避けた。
今日は、図書館で座ってばかりいたから、ニーナと二人で歩いて帰ることにして、マリーには先に馬車で帰ってもらった。
僕とニーナは、帰る前に、王宮の片隅にあるマルクスの屋敷に寄ることにした。海賊たちも住んでいる。
何回も逃げ出して迷惑をかけたから、海賊たちが大好きなワインを差し入れるためだ。
「なんだ、お前、心を入れ替えたのか」
コロンブは、驚いて僕を見ていた。
「ま、ね。逃げてばかりいてもダメだなぁって思って、作戦を変えることにしたんだ。お前らは僕の配下だけど、僕が国王になったら、お前らが僕を守ることになるんだからな、もっとちゃんと僕のいうこと聞くんだぞ!」
「何、生意気言ってるんだ、悪ガキが。誰がお前の配下だ、殴るぞ。ほんとに、お前なんかが国王になったらこの国はおしまいだぜ」
「そう思うなら、ランス、僕を逃してくれれば良かったのに」
「それはそれ、お前を逃さないのが、仕事だ」
「そっか、仕事熱心だね。じゃ、これ、ワイン飲んで!」
「おお、そうか、悪いな」
「あれ? 今日、ガンツとルフィノとイサークは?」
「国王の参加する会合での警備だ」
「ふーん、お仕事大変だね」
「なんか、今日、お前、素直だな」
「そ、そうかな? あ、ジャコブ、僕、帰るよ」
「おう! お嬢も、気をつけてな!」
「はーい、じゃ、さよなら!」
そう言って、僕とニーナは、風に乗った。ふわりと上昇する。
「お、おい! こら! どこへ行く気だ!」
海賊たちは慌てる。
「遠くさ!」
僕らは上昇する。
「網持ってこい!」
海賊はバタバタと網を出してきて、僕らに投げつけた。
例のニーナ専用のニーナの魔力を封じる網だ。
「ニーナ、避けて!」
ニーナはひらりと網をかわす。
「へへーんだ!」
僕は、海賊を挑発する。
海賊は、再び網を投げた。
しまった、ニーナの足に網がかかった!
「きゃあ!」
「やばい!」
ニーナと僕は、海賊に網を引っ張られ、地面に降りてきた。
「こら、坊主、お前、俺達をからかいやがって、ぶん殴ってやる」
「や、やめろよ、違うんだよ、これは……」
「何が、違うんだぁ?」
「偽物なんだ」
「は?」
「ニーナ!」
「オッケー!」
僕らは再度上昇する。
「お、おい、網がかかってるのに、なんでお嬢、飛べるんだ?」
海賊たちが慌てる。
僕らは、さっきより速く飛ぶ。
王宮の屋根くらいの高さになってから、海賊を見下ろして言ってやった。
「その網、偽物だから! 本物は、捨てちゃったって、国王に言っておいて!」
「なんだと、コラー!」
「おい、風の魔法使いを呼べ!」
「あいつら、なんですぐ飛んでこないんだ?」
「はははっ、魔法使いは、よく眠っていたよ! じゃあね!」
「なんだと、坊主、お前、何をしたぁ!」
「行こう、ニーナ」
僕の言葉を合図にニーナは、加速を強めた。勢いよく王宮を飛び出す。
海賊たちが腕を振り上げて怒っているのが見える。
追ってくる風の魔法使いはいなかった。
僕とニーナは大笑いしながら、飛んでいる。
作戦は大成功だ!
そう、僕らは、逃げるばかりでは能がないと、作戦を変えたのだ。
まず、ニーナ専用の網とやらをなんとしたかった。人を獣扱いしやがってと、頭に来ていたし。
だから、僕は王宮の図書館に籠っているフリをして、海賊たちの屋敷に忍び込み、似た感じの普通の網と、ニーナ専用の網をすり替えておいた。
僕は、海賊たちと長く過ごした。あいつらがどこに何をしまうのかなんて、もちろんわかっていた。
あいつら雑だから、使わない時、網を手入れなんかしない。
袋の中身が入れ替わっていても気づかない。
僕の読みは、合っていた。
風の魔法使いは、簡単だった。彼らはワインが大好きだ。お昼ご飯の時にも飲んでしまうくらい。
だから、お昼ご飯の時間の少し前に、風の魔法使いたちの控室にそっと忍び込んで、ワインを2本置いておいた。
眠り薬入りのワインだ。
うちのワインセラーから、ちょっと高価で美味しいと有名なワインを選んでおいたので、絶対飛びつくと思っていた。
こちらも大成功で、海賊の屋敷に行く前に、控室を除いたら、みんな気持ちよさそうに、眠っていた。
あと一つ。
今日は、国王様が、王宮にいないことは調査済みだった。
だから警備のために海賊も減る。
王宮で魔法を使っても、さすがに国王様も、出先から飛んで帰っては来ないだろう。
誰にも見つからないようにと思ってこそこそ逃げるから捕まるのであって、ある程度準備して、目の前から逃げてやれば、相手が後手後手になるのは目に見えている。
そうさ、僕はこの一年、だてに王宮をうろうろしていたんじゃない。
僕らは、飛行し、4回目に捕まった小屋に着いた。
前回逃げた時、そこに、平民の服を隠しておいたのだ。
そして、僕とニーナは平民に変装し、まんまと王都を脱出した。