7 逃亡劇7
「ニーナ、話があるんだ」
僕は、夕食後、ニーナの部屋をノックした。
ニーナは、ドアが開いた途端、僕に抱きついた。
「ちょっと、ニーナ、ダメだよ、急に抱きつくのは!」
「いいじゃない、アレク、今日はまだ、一度も抱きついてなかったんだよ!」
ニーナは、この一年で見違えるように成長した。
身長は10センチ近く伸びたんじゃないだろうか、体つきも女性らしくなって、胸も、その、大きくなった。
だから、以前は思わなかったけれど、最近は、抱きつかれると、なんだかいろいろ意識してしまう。
そして、そんな僕の反応を見て楽しんでいるようにも見えるので、ちょっと小悪魔化してきているように思える。
でも、体つきは成長したけれど、性格や行動はあんまり変わっていない。あんなに毎日王宮で学んでいるのにもかかわらず、だ。
「もう、いいから、離れて」
僕は、ニーナの両脇を持ち上げ、丁重に引き離した。
ニーナの伸びた身長くらいは僕も伸びたから、視線の位置は変わらない。
「何よ、アレク、ご機嫌ななめ?」
ニーナは不服そうだ。
「いや、違うんだ。ちょっと、真面目な話がしたいんだけど、いい?」
「え?」
ニーナが固まる。
「わ、わたし、このところ、何にも悪いことしてないよ、ほんと! それはわたしじゃない!」
「ニーナ? 僕はお説教しにきたんじゃないよ」
「あ、そうなんだ、ああ、よかった」
ほっとした顔でニーナが僕から目を逸らした。
「ニーナ、本当は、なんかやらかしてるんじゃない?」
「ち、違うって、アレク!」
ニーナの目が泳いでいる。これは、何かあるんだろう。でも、今日はいいや。
僕は、ニーナの部屋のソファに座り、今日、父さんから言われたことと、アンリから聞いたことをニーナに話た。そして、僕は、逃げようと思っていることも。
「ニーナはどうする? 僕はニーナのそばにいると決めている。だから、これはとても勝手なお願いだけど、ニーナも一緒に来て欲しい。でも、そうすると、ニーナが国王候補として学んできたことが無駄になってしまうんだ。だから、僕は、強くはお願いはできない」
「アレクったら、わたしの答えは決まってるよ」
ニーナの緑の瞳が輝きを増した。
「アレクと一緒に行く。神のお告げだっけ? そんなのに振り回されるのはアレクらしくない。自由に生きようって、わたしたち決めてるよね。わたしは、アレクが誘ってくれて、嬉しい」
ニーナは微笑んでいる。
「でも、勉強が無駄になるのはいいの? それに、君じゃない誰かが王に選ばれてしまうかもしれない」
「ああ、勉強は、神殿を破壊した償いのためにやってるんだよ、わたしは働けないから、代わりに国王様の言うことを聞いて、勉強していただけ。修復にいくらかかったのかわからないけど、マルクスたちが五年お勤めなら、わたしも3年くらいは、言うこと聞かなくちゃいけないかなぁと思ってたの。わたしは王様になりたいわけじゃないし。アレクがここを離れるなら、わたしもここにいる意味ない。わたしはここにいたいんじゃないんだよ、アレクと一緒にいたいの」
「ニーナ!」
僕は、ニーナの言葉が嬉しすぎて、ニーナを抱きしめた。
ニーナも抱きしめ返してくれる。
「それにね、二人で逃避行なんて、楽しそうじゃない? 一度、やってみたかったの!」
と言うわけで、僕らは、その夜早速、こっそり家を抜け出したんだけれど、何故だか、海賊たちがうちの周りにいて、逃げ出して、ほんの10分で、捕まった。
その時は、夜の散歩に行こうとしていたことにしたので、夜に勝手に出掛けてはいけませんというお説教を受けたくらいで、解放された。
で、次の日、ニーナと空から逃げようとして、なぜか王宮の風の魔法使いがうちの周りにいて、飛び出してほんの10分で捕まった。
それも、月夜の飛行をしようと思っていた……ってことにしたのだけれど、許可なく魔法を使ったということで、これはかなり叱られた。
で、その次の日は、今度は王宮で待ち合わせして、二人で歩いて帰ることにして、街にいき、買い物したり本をみたりするフリをして、遠くへ荷物を運ぶという幌馬車を見つけて乗せてもらって逃げることにした。
王都をもうすぐ出るところまできて、急に馬車が止まり、なんだろうと顔を出したら、海賊たちがいた。
慌てて、馬車から降りて、飛んで逃げようとしたけれど、風の魔法使いもいて、捕まった。
これは、ちょっと言い訳に失敗して、僕は海賊達にボコられて、ニーナは風の魔法使いにすごい勢いで説教されていた。
さすがに、僕らも気づいた。僕らは見張られていることに。
だから、4回目は、早朝から準備して完璧なはずだったのに、やっぱり捕まってしまったのだった。