4 逃亡劇4
次の日、王宮へアンリやルノーに会いに行った。あわよくば、国王にも文句を言おうと思っていた。
ニーナは今でもまだ、毎日のように王宮へ勉強されられに馬車で通っているが、僕はこのところ自由に過ごせていた。だから、いつも歩いて王宮へいく。
門番とはもう、顔馴染みだ。
「アレクシス様、今日はお早いですね!」
門番のマルソーが白い歯を見せて爽やかに挨拶してくれる。
そうそう、これこれ!
こうやって僕を丁重に迎えてくれる態度が、うちの公爵家の人たちにも僕の配下と言える海賊たちにも無い。だから僕は門番のみんなに会うと、今日は一日いい日だったと思えるのだ。
それが嬉しくて、僕は時々、差し入れを持っていく。
「やあ、マルソー、君が教えてくれたショコラティエのお店、すごく美味しかったよ。今日は僕が見つけたお店のマドレーヌを持ってきたんだ。あ、おはよ、トマス! トマスも甘いもの好きだろ? 一緒に食べてみてよ!」
「アレクシス様、いつもありがとうございます!」
礼儀正しく挨拶してくれるのも気持ちいい。
僕は笑顔で手を振った。僕は門番の顔は全員知っている。もう、王宮の入り口は顔パスになっている。
また何か王宮で事件が起きても、緊急避難路を使う必要は無いのさ!
僕は、門番の他にも、警備兵や王子たちの護衛、庭師、王宮の守りを専門とする魔法使いに顔見知りができて、王宮の中をうろうろしていても、咎められることは無くなった。ま、それくらい、王宮に通っていると言うことだけど。あと、それくらい、王宮の中でうろうろしているってことでもあるけど。あ、うろうろの方は、父さんにもイネスにも内緒ね。
「アンリもルノーも、国王選定儀式に出るんでしょ?」
僕は、アンリの部屋に押しかけた。ルノーも呼んだ。
「そうなんですよ、もっと先の話だと思っていたのに、1ヶ月後なんてあんまりです」
アンリが悲壮な表情になっている。
「僕なんて、まだ14だよ、不利だよね、なんでこんなに早まったんだろう」
ルノーも困惑気味だ。
「父上は、19年前に選定されたんです。当時、22歳でした。今はまだ、お祖父様もお元気だし、今選んでも、次の次の代になるわけで、選ばれた人が国王に立つまでに、場合によっては三十年はかかる」
「まじか! なんだよそれ!」
「そう思いますよね、20年おきに開催としても、あと1年はあったはずなんです」
「あ、でもフリシアから考えると、今年で21年目か」
「……アレク、なんでそれを知ってるんですか?」
「マリーから聞いたんだよ」
「マリーですか、さすがですね。本当に、マリーには助けられています。マリーが王宮に来てくれればいいと、会う度に勧誘してるんですが、なかなか良い返事がもらえません」
「ちょっと、アンリ、ダメだよ、マリーは僕の姉さんみたいな人なんだから、勝手に勧誘しないで!」
「確かに、マリーはいつもアレクの行動を嘆いていますよ。ぜんぜん言うことは聞かないし、ちょと目を離すと逃げ出すしと。あんまりマリーを困らせないでください」
「なんだよ、それ。君はいつから僕の兄貴になったんだ?」
「嫌ですよ、君の兄なんて、ルノーでも手に余るのに、君は僕の手には負えない」
「なんで兄上、僕のことをそんな風に言うの?」
「そうだよ、自分だけ兄貴ぶるなよ」
僕とルノーで、反撃しても、アンリはふっと肩をすくめて笑って見せるだけだ。
「……でも、そう考えると、今年選定儀式があっても、イレギュラーではないんだ」
「そう……かもしれませんね、ただ、今年は、歴史上最もイレギュラーなことはありますけどね、……アレク」
「やっぱり、知ってるんだね、僕が参加させられること」
「うん、僕も昨日聞いた。驚いたよ、なんでアレクも参加するの?」
と不思議そうにルノー。
「いや、ちょっとまって、僕は自分の意思じゃない。だから、今日は二人にお願いがあって来たんだ。君たちのじーさん、じゃなくて、国王様に、僕じゃない人を選定するように言ってくれないかな? ほら、王家の血を引いてたら、誰でもいいんだろ? 国王様は兄弟が多いから、その兄弟たちの孫なんて言ったら、僕以外にも何十人もいるじゃやないか。ね? お願いだよ、アンリ、ルノー、国王様に頼んでみてよ」
アンリとルノーは、僕の言葉に驚いた顔をして、二人で困った表情で視線を交わした。
「なんだよ、友達だろ? それくらいいじゃないか」
二人の表情に僕も困惑する。そんなに難しいことを頼みに来たつもりじゃなかった。