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3 逃亡劇3


「イネスも酷いと思うだろ? なんで、僕なんだよって」

 僕は、僕の部屋に紅茶を持ってきてくれたイネスに話し込む。

 僕は、ベランダで手すりにもたれて、外をぼんやりと見ているところだった。

 イネスは、テーブルに紅茶をおくと、ベランダに来てくれた。


「……坊っちゃまが国王に……」

 僕の話を聞いたイネスが絶句している。わかるよ、その気持ち。


「いや、ならないからね、僕は、国王になんて。ていうか、なれない。それだけはわかる」


 イネスは僕の家の侍女で、いつも僕の世話をしてくれている、1歳上の姉さんみたいな存在だ。気の強いイネスには、僕はいつも叱られているけれど、イネスは僕の話をちゃんと聞いてくれる。

 一年前は、背の高いイネスを見上げて話をしていた僕も、この一年で身長が伸びて、もう少しでイネスの身長に並ぶ。そのうちきっと追い越す!


「魔力って言ったらさ、ニーナがいるんだから。アンリやルノーも国王様の直系の孫だし、二人とも優秀でしょ? 僕の出番なんてないんだよねー。誰でもいいから候補者の人数増やしたくて、たまたま僕が知り合いだからって選んだ感じがするけど、僕はえらい迷惑だよ。明日、国王に会って文句言ってやろうと思ってる」

 僕は、ベランダの手すりにもたれて、ふてくされる。

「こ、国王様に、文句を言うって、坊っちゃま、不敬だって叱られますよ!」

「大丈夫だって、あのじーさんとは、もう、ツーカーの仲だから! あんなじーさん、どおってことないんだよ。冗談ばっかり言ってくるし。突然現れてちょっかいかけてくるし。子供かって思うことがあるくらいの、じーさんだよ」

「……坊っちゃま……」

「そうそう、頭に来たから、この間、こっそりあのじーさんの杖と別の部屋にあったそっくりな杖を入れ替えてやったんだよ。けど、気づかないし……ふふっ、あれは面白かったな」


「……坊っちゃま、ちょっと」

「あ……い、イネス、違うっ、今のは嘘っ! あ、その怖い顔はやめて!」

「そこにお座りなさいっ! 坊っちゃま!」

 僕は、襟首を掴まれて、問答無用でベランダから連れ戻され、部屋のソファに放り投げられた。

 イネスって怒るといつも馬鹿力なんだ!

「あなたという方は、王宮で、なんて悪戯をしてるんですかっ! 国王様の杖に悪戯したですってぇ! どういうことですか! しかも国王様に向かって『じーさん』だなんて! そう言う態度がいけないと、いつも私は申し上げているでしょっ!」

「うわーっ、イネス、ごめんなさいっ」

「謝る先は私ではございませんっ! 国王様にそんな態度で接してらっしゃると旦那様が知ったら、さぞお嘆きになるでしょう! 公爵家の御子息としてあるまじきことです! だいたい坊っちゃまはっ!」


「なーに、またイネスに叱られてるんですか、坊っちゃま」

「マリー!」

 救世主登場だ。

「マリー、僕に用事だよね、すぐに行くよ、ごめん、イネス、急用が入った」


 マリーも僕の家の侍女で、ニーナのお世話をしている。僕の1歳上で、イネスと同じく僕にとっては姉さんみたいな人だ。マリーは、博識で、そして魔女だ。


「いえ、坊っちゃま。私は、エミールに頼まれて、お茶のお菓子を届けにきただけです、では、ごゆっくり」

「あー、マリー、待って! お願い! 聞きたいことがあるんだ!」

「なんでしょう?」

「あのさ、国王選定儀式で知ってることある?」

「国王選定儀式……まさか、今年あるんですか?」

「うん、1ヶ月後だって!」

「ええっ! 慣例では一年前には日程が決まって、告知があり、それに向けて皆さん準備されると聞いています」

「詳しいんだね、マリー。よかったら、座って、もう少し詳しく聞かせてくれないかな? ほら、イネスも座って、ね?」

 二人とも、ソファーに座る。……助かった。

「そうだ、このお菓子、みんなで食べよう。お茶も、準備するよ」

 僕はいそいそとお茶をあと二人分準備して、二人が落ち着くのを見てほっとする。ちょうどいいことに、エミールのお菓子はマカロンだった。数があるから、みんなで分け合える。


「それで、そんな大変な行事なの? 国王選定儀式って、ニーナが参加するんだよね?」

「そうですね、この儀式の内容は、王国のトップシークレットでもあるので、関係者以外は詳しく知るものはおりません。ただ、わたしもニーナ様のことがあるため、情報収集には務めてまいりました。わかっている範囲で申し上げますと、お告げがあり開催されること、王族で魔力のあるものが参加すること、剣を抜いたものが国王となることの、以上3点です」

 なんだ、僕の情報とあまり変わらない……。


「ただ、ニーナ様関連の情報として一つ。ニーナ様のお母さまであるフリシア様は、16歳の時にこの儀式に参加し、剣を抜いています。でも、海へ行ってしまわれました。その年は、長雨が続いて大きな川が氾濫して大変だったそうです。国王候補が海で亡くなったため、神が嘆いていると噂が流れたそうです。その後、兄上の皇太子様が剣を抜き、次期国王として立たれました」

「フリシアは、国王に選ばれたのに、それを無視して海賊の元へ行ったってこと?」

「さすが、ニーナ様のお母さまですよね」

「ほんとだねー」

「でも、それなら、神は嘆いていたのではなく、フリシア様のしたことにお怒りだったのではないですか?」

イネスが、不思議そうに言う。

「あ、そうか、神様のお告げを無視したからか。でも、そんなことってあるのかなぁ。川の氾濫なんてたまにはあるし、偶然じゃないの?」

「坊っちゃま、神を侮ってはいけません」

「はい」

 やばい、今はいらないことは言わない方がよかったんだ、イネスを刺激しないように気をつけないと。

「……しかし、こんな急にバタバタと決まるとは思っていませんでした。ニーナ様の準備を進めないと……」

「そうなのね、マリー、準備がいるのね、じゃ、私にも教えて。坊っちゃまの準備もしないと」

 マリーがキョトンとする。

「なぜ、坊っちゃまの準備をするの?」

「僕も候補として参加しろって、父さんに言われたから」


「え? えええええええええーーー!」

 マリーは叫んで、立ち上がった。

 そ、そんなに驚くこと?

「どうして、坊っちゃまがっ?」

「知らないよっ! 国王命令だって言われたんだ」

「な、な、なんてことを……」

 マリーは青ざめていた。

「ちょっと、マリー、君、もしかして選定行事のこと、もっと詳しく知ってるじゃない?」

「い、いえ、私は……」

「マリー、詳しく教えてよ、お願いだよ!」

 マリーは、僕のことを見て、泣きそうな顔をしていた。

 なんだか、嫌な予感がする。

「私の口からは言えません。アンリ様方、王族の方にお聞きください……、すみません、急用を思い出しました。失礼します」

 マリーはそう言って、さっと部屋を出て行ってしまった。

「なんだよ、マリー、教えてくれればいのに……」

 僕はマリーを見送って、振り向き、心配そうな顔のイネスに気づく。

「あ、イネス、よかったら、マカロン全部食べて」





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