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1 逃亡劇1

「公爵家の僕の家に住む、僕の小さな魔女が、令嬢のフリをしている理由」の続編です!


 僕は息を潜めていた。

 大丈夫、見つからないはず。

 僕の腕の中で、同じく息を潜める少女の緑色の瞳が、妖しい輝きを持つ。

「もう少し、待って」

 僕は少女の耳元で囁く。

 少女は瞳だけで、頷く。


 あいつらの気配は近づいてくる。僕たちは、気配を消している。見つかるはずがない。

 ガタガタと音がして、僕らのいるこの小さな小屋が揺れる。風が通り過ぎたんだ。


 足音がする。歩いている。近づいてくる。


 万が一、小屋の扉を開けられたら、おしまいだ。

 じっとして闇に紛れ見つからないよう祈るか。飛び出して全力で逃げるか。


 僕らは、もちろん後者だ。なんなら、小屋ごと破壊してもいい。


 足音がさらに近づく。そのまま足音が通り過ぎれば、僕らの勝ちだ。しばらくしたら、夜の闇に紛れて移動する。


 でも……。

 耳をすます僕は、愕然とする。足音は増えた。バタバタと動き回る。遠ざからない。

 これは、……囲まれている。まずい。もう、やるしかない。


 僕は、腕の中の少女にいう。

「ニーナ、いいよ、飛ぼう!」

 緑色の瞳が、ニヤリとした。


 ごおおおっっと竜巻が僕らの目の前で発生し、竜巻は上に伸びて、小屋の屋根を吹き飛ばす。


 その竜巻に紛れて、僕とニーナも小屋の上へと飛び出した。

 そのまま、上昇する。

 逃げ切るんだ!



「うわあっ」

「きゃあっ」

 僕とニーナは、柔らかいものに包まれた。紐? 蜘蛛の糸?

 そのまま、飛行することはできず、動きを囚われた。

 網だ。

 二人で網の中にいた。柔らかいけれど切れない網。

 網は、小屋の上の木に張られていたらしい。

 僕らが上に逃げようとすることは読まれていた。悔しい!


「なんだよ、これ!」

「いや! 出してよ!」


 僕らは、網の中から、奴らを見下ろす。


「残念だったな、坊主。お前の行動なんて、全部お見通さ!」

 ガンツが不敵な笑みを浮かべる。

「手間かけさせやがって、たっぷりお灸を据えてやるから、覚悟するんだな」

 ジャコブがポキポキと指を鳴らす。


「うるさい! こっから、出せよ!」

 僕は、網の中から二人を睨む。

「ちょっと、ガンツ、この網、何? 魔法が使えない!」

「お嬢、それは国王様特製の網だ。お嬢専用だな。どうなってるかは知らないが、そん中では魔法が使えないってよ、お利口にしてな」

「覚えておきなさいね、お前たち!」

「残念だな、お嬢、これは二人を逃すなっていう国王命令だ。俺らへの文句は受付ねぇ」


 僕とニーナは網に入れらたまま、荷馬車に乗せらて、僕らが逃げてきた道を戻ることになった。

 荷馬車は幌があるから、僕らは見せ物にはならないけど、家に着いた時、決して格好いい登場とは言えない。

 網から出してもらえない。

 網はどんなに引っ張っても、切れない。柔らかく、びよーんと伸びるだけだ。ナイフでも切れない。


「ニーナ、これ、なんとかならない?」

 僕は情けなくも、ニーナの魔法に頼るしかない。僕には魔力がない。

「ごめんね、アレク、やってるけど、この網は破壊できない。すごい結界!」

 ニーナも情けない顔をする。

 

「こら、聞いてるのか、坊主」

 僕は、ゲンコツを喰らい、恨みがましく、ジャコブを見る。

 しばらくすると、ニーナは網の中なのに、丸まって眠ってしまった。ニーナの寝顔は可愛い。

 きっと疲れたんだろう。歩いてここまで逃げてきた。あと少しで、王都から出られたのに。


 僕らの見張り役のジャコブとユルバンとイサークは、ニーナが寝るや否や、僕に正座をさせ、説教を始めた。しかも、何か言う度に、僕を小付いたり蹴飛ばしたりしてくる。

「痛いっ、やめろよ! 痛いって!」

「この悪ガキが! 何回逃げれば気が済むんだ」

「お前ら、僕は貴族なんだぞ、こんな乱暴していいのか?」

「何を今更! それに、お前は多少痛めつけてもいいと言われている」

「なんだよ、それー。誰がそんなこと言うんだよ!」

「お前の親父と、国王様だ」


「あんの、クソオヤジと、クソジジイ! 覚えてろー!」

 叫んだ僕は「うるさい、静かにしろ坊主!」と3人からゲンコツされた。もう、散々だ。


 実は、もうこれで、今週4回目の逃亡劇だった。なかなか、こいつらから逃げ切れない。



 そう、全ての悪夢の始まりは、1週間前の父さんの言葉だった。



  *** *** ****


 僕は、アレクシス・ド・ロートレック。

 ロートレック公爵家の三男だ。今、16歳。

 僕のお祖父様は国王様の弟で、父さんは、この国の中枢で財政関係の仕事をしている。うちは由緒ある家柄だ。

 一番上の兄は自分の領土を与えられ、二番目の兄は公爵家を継ぐ予定で、今、隣国に留学中だ。

 三男で末っ子の僕は、貴族の子息として大事に大事に育てられてきた。

 一年前までは。


 一年前、僕は運命の出会いをした。

 それは、僕の大切な人、ニーナとの出会いだ。

 ストロベリーブロンドに緑色の瞳の美少女ニーナ。

 ニーナは当時13歳で、今と違って、見た目も行動も随分幼かった。

 可愛くってやんちゃなニーナの行動は予測不能で、僕はいろいろ振り回されたけれど、ニーナとの生活は僕の世界に鮮やかな色彩を与えた。


 ニーナは初め、大富豪商人の令嬢として僕の前に現れた。

 けれどニーナの正体は、今は亡き第一王女フリシアの娘だった。国王の孫だったのだ。その上、ニーナの父親は海賊モルガン一家のお頭だった。ニーナはその兄マルクス、リヒトと共にこの王国の秘宝を狙っていたのだった。

 僕は妹みたいに可愛いニーナを守るため、ニーナとニーナの兄マルクス、リヒトが起こした事件に関わった。


 僕は僕なりにニーナを守り抜いたわけだけど、それがきっかけで、僕はその後、いろいろ酷い目にあった。


 一番酷かったのは、ガンツたち海賊モルガン一家の手下の奴らと共に、1年近く、軍隊のような訓練を受けさせられたことだ。毎日走らされ、海賊達には手加減なく打ちのめされ、壁によじ登ったり綱を渡ったりさせられ、ビシバシと鍛え上げられた。なんで王族の端くれで上級貴族である僕がこんなめに合うんだ、という僕の訴えは、全てスルーされた。


 おかげで、運動神経のカケラもなかった僕は、人並みに走れるようになり、剣も弓も使えるようになり、まあ、たぶん、その辺の崖から突き落とされても這い上がってこれるだけの、気力と体力と技術力を身に付けた。いや、ほんとに崖から突き落とされたからね、訓練中に。死にかけたんだ、何度も。


 それもこれも、父さんと国王様のせいだった。

 初めは、父さんの言うことを聞かずに色々やらかした僕への罰だと思っていたんだけど、どうやら国王様も一枚噛んでいたことが後々わかってきた。

 それでも、僕はニーナと一緒に暮らしていることを心の支えに耐え抜いた。ニーナが笑って僕の話を聞いてくれるから、あの地獄のような日々を生き抜いたのだ。


 そして、やっと二ヶ月ほど前に訓練から解放され、このところは生活が落ち着いて、僕と父さんの関係も回復し、僕の住む公爵家もいい雰囲気になってきたところだったのに。


 また、悪夢が再来するなんて!


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