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9話 ヘリトンの町

 商業都市ヘリトン。海からの仕入れ、陸からの仕入れに対応していて様々な素材や武器が売られている。

 東西南北の珍しい品物を目当てに訪れる人も多い。


「へぇ、私が封印されている間にこんな町ができていたとは」

「ここは飯が美味いんだ。港の方の屋台は毎日繁盛してるぜ」

「詳しいのか?」


「それなりにな。家から飛び出して最初の内はこの辺りで稼いでたからな」

「ふぅん……あ、私あれ食べたいぞ」

 ゼルが指差したのはマリンイーターの塩焼きだった。何でもかんでも食べる海の厄介者マリンイーター。


 見た目は最悪だが、味はしっかりとしていて意外と美味しい。外見で敬遠されるが、一度食べると病み付きになること間違いなしだ。


「ギルドで色々確認したら食うか」

「何を訊きに行くんだ?」

「それは着いてからのお楽しみさ」


 町の中央にドン、と構えている巨大な建物がギルドだ。酒場と併設されていて情報提供や仕事の斡旋などをしてくれる冒険者ならば誰もがお世話になる施設だ。

 俺も駆け出し時代には手取り足取り教えてもらったものだ。


 ギルドの中は相変わらずうるさく、人でごった返していた。まだ朝だというのに酒を飲んでいるやつらもいる。

 飲んだくれ達を掻き分けて受け付けカウンターの前に立つ。

 念のために顔を変えてから話しかけた。


「あの、すいません」

 忙しそうに書類を整理している女性に声をかける。少々お待ちください、と言われた数秒後、メガネをかけたお姉さんが顔を覗かせた。


「はい、ヘリトン支部へようこそ。どのようなご用ですか?」

「シャービスっていうチームが今どこにいるか教えて欲しいんですけど」


「シャービスなら、二年前に解散してますよ?」

「何ィッ!?」

 思わず大声が出てしまった。周囲の喧騒に紛れて注目は集まらなかったが、お姉さんを驚かせてしまったようだ。


「失礼、じゃあメンバーの居場所とかわかりませんか……?」

「申し訳ないんですが、解散したチームメンバーの情報を教えることはできないんです」

「そんなぁ……」

 唯一の手がかりを失くし、一気に気力が萎む。


「でもバルデンさんならお教えできますが」

「それは……どうして?」

「解散したあと、あの人は鍛治師を始めたんです。ここから南の森の中でひっそりとね。ただ、深い森の中だから客足が悪いそうで、冒険者達に宣伝してほしいと頼まれてるんです」


「ははぁ……なんと都合のいい」

「地図ですとこの辺りになります。彼なら他のメンバーの場所もわかるんじゃないですかね」

 お姉さんが示すのはヘリトンからずっと南にあるマージ大森林という巨大な森だった。

 通称、死の森という程に危険なモンスターが生息している場所だ。


「何でこんな場所で店を開くかねぇ……」

「森を踏破できるものにしかハンマーを振りたくないそうです」

「まったく、厄介な所だな……ありがとうございました」

「では、いってらっしゃいませ」

 お姉さんに別れを告げてギルドから出る。


「マージ大森林か……私が生きていた頃はそんなに危険でもなかったが、何かあったのか?」

「どっかの馬鹿が実験に失敗して人食い花の群生地になったんだ。元に戻す前にそいつは食われたらしいがな」


 あそこでしか取れない貴重な花や種があるから俺は何度も出向いた。その度に死にかけた。

 できれば行きたくはないが、背に腹は代えられない。


「そう不安がるな。最強の私がいるんだから死ぬことはないさ」

 尖った犬歯を剥き出しにした笑顔を見て少し──いやかなり勇気が湧いてきた。

 ゼルの頭を撫でて礼を言う。


「じゃあマージ大森林に行く前に武器買ってくか」

「その前に塩焼きだぞ」

「はいはい、分かってますよ」


 最初に見かけた店で自分とゼルグリア用に一本ずつ買う。熱々の焼き魚を渡すと目を輝かせてかぶりついた。

 熱さを感じないのか、一心不乱に咀嚼している。これだけ見れば可愛い子供なのたが、時折覗く尖った歯がそれを否定する。

 

「見た目からは想像できない美味さだな!」

 骨をものともせずにバリバリと頬張り胃へ送り込む。ものの数秒で串だけになり、物足りなそうな目で俺を見つめる。


「もう一本お願いします」

 追加の代金を支払ってゼルに渡す。今度はゆっくりと味わって食べているようで、しばらくは持つだろう。


 さて魚の次は俺の剣だ。バルデンなら俺の剣を直せるかもしれない。だが、マージ大森林を進むにはこのボロでは少々キツい。

 屋台から北西の方に見える武器屋に入店する。


 壁に掛けられた斧や槍といった武器は、駆け出しの冒険者が買えるような値段ではなかった。

 俺もそこまで金を出せる訳ではないからなるべく安くて切れ味の良い物を選ばねば。


「すいません、この剣って直せたりします?」

 ダメ元でカウンターにふんぞり返っている店主に尋ねる。のそりと上体を起こした店主は剣を引ったくると鞘から抜き出した。


 ボロボロの刀身を見つめ、指先で撫でて深い溜息を吐いた。そして鋭い視線が飛んできた。

「お前、どんな使い方したらこうなるんだ? 刃はボロボロ、おまけに柄と刀身が微妙にずれてやがる。悪いがこれは俺には直せねぇ」

「そう……ですか。じゃあ、これに近い剣ってあります?」


「あー……ちょっと待ってろ」

 ほんの少し考え込んだ店主は棚の裏にある階段から地下室へと降りていった。


「調子のって剣で壊そうとするんじゃなかったな」

「他に壊せる手段はあったのか?」

「最初から化け物をぶつけるべきだったよ」


 遅い後悔を噛み締めつつ店主を待つ。ガチャガチャと金属がぶつかり合う音をたてながら店主が戻ってきた。

 似たような剣を三本カウンターに置いた。


「その剣に近いのはこの三つしかなかった。少し振って確認してくれ」

 言われた通り右の剣を手に取る。少し軽めの印象があるが、刀身の長さはちょうど良い。


 次の真ん中の剣はぴったりの重さだが、やや刀身が短い。最後の左の剣は他の二つより重く感じ、刀身は少々長い。


「んん……うーん……」

 三本を交互に振り回して色々試す。一番しっくりと来たのは最初に取った軽くて長さのちょうど良い剣だった。

 何度か空を切り、鞘に収める。


「これください」

「あいよ、毎度ありぃ」

 思ったより高かったがまあ、悪くはない買い物だったろう。まだ財布には余裕もあるし、飛空挺でマージ大森林に向かうとしよう。

 古い剣はカバンにしまい、新しい剣を腰に装着する。


「これで準備は整ったな。目指すはマージ大森林! 行くぞ!」

 町の出口へ向かおうとするゼルの肩を掴んで回れ右させる。

「なんだ、まだ何か買うものがあるのか?」


「いーや、マージ大森林へは飛空挺を使います。近くのマージ村で降りてそこから森へ突入する。いいな?」

「ヒクウテイ……とはなんだ?」


「あ、そうか。お前が生きてた時代には無いものか。飛空挺は飛行石っていう魔石が組み込まれた空を飛ぶ船だ」

「そんな物を使わずとも転移魔法を使えばよかろう?」


「あー、転移魔法もな、町から町への転移は禁止になったんだ」

「何!? 私が生きていた頃は転移屋なんてものがあったぞ!?」

「八十年くらい前、西の方で戦争があったんだ。東国の連中は転移屋から西国に侵入したんだ。結果として西の国は惨敗、以降、町から町への転移は禁止になったのさ」


「なるほど……」

「空の旅もそんなに悪いものじゃないさ。風は気持ちいいし、何より景色が最高だ」

「ほう、それは楽しみだ」

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