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6話 実家へ侵入

「ほう、ここがユーリィの実家か。思ったよりも大きいな」

「ま、金だけはあるからな。ほとんど使わずに貯め込むのが好きなんだよ」

 固く閉ざされた正門から裏手に進み、ちょうど母が育てている花壇の壁際へ回る。


「何をしている、門から入ればいいだろう」

「あのなぁ……俺は家出してるんだぞ。見つかったら説教やら何やらで面倒だ。欲しい物だけ持って出発するぞ」


 子供の頃に作った俺とメイドのカリーナしか知らない秘密の抜け道の扉を探す。

 バレないように土を被せたせいか、まったく見つからない。手を泥だらけにしながら取っ手を掴もうと躍起になる。


「む、これか?」

 ゼルグリアが俺の膝の下にあった取っ手を掴んだ。今まで気づかずに乗っていたのか……灯台もと暗しとはこの事を言うのだろう。


「これを上に引っ張って……!」

 錆び付いたドアを押し上げる。地面がめくれて幼虫やミミズ、その他小型の虫が宙を舞った。

 ギギィと耳障りな音をたて、遂に実家へ繋がるドアが開いた。


 ドアの後ろに張り付けてある縄梯子を落とす。俺の後からゼルが梯子を降りた。

 手に小さな炎を灯して周囲を確認する。五年前と何も変わっていない。家から抜け出すために作った地下通路。

 今でもカリーナが掃除をしてくれているようで、埃一つ無い。


 壁に掛けてあるランプを取ってその中に火を移す。元々、祖父の代から存在していた地下通路だが、結局使い道が無くて工事をやめてしまったそうだ。


 そこで俺が半年ほどかけて屋敷の結界の外まで貫通させたのだ。物置の真下まで来ると、ゼルが何かに気づいて身を固くした。


「誰か来るぞ……」

「安心しろ、カリーナだ」

 天井から、にょきっと凛々しい顔が覗いた。豊かな緑色の髪の隙間から鋭い視線が飛んでくる。

 俺だと分かると一度頭を戻し、再度体ごと地下へ降りてきた。


「よう、カリーナ。久しぶり」

「ぼっちゃま、お久しぶりです」

 彼女はフロミネス家の家事全般を請け負うエルフのメイド、カリーナだ。長命のエルフ故、俺が家出した時から外見は一切変わっていない。


「あら、そちらのお連れ様は?」

「え、えーと……実はこいつ捨て子でさ……親を探す旅してるんだけど……」

 かなり苦しい嘘だが、カリーナなら察してくれる。そう信じて首筋を流れた汗を拭く。


「そうですか。ぼっちゃまは偉いですね」

「どーも、んで俺は旅の用意をしに戻ってきたんだ」

「そういえば荷物がありませんね」


「恥ずかしい話、野宿してる時に盗賊に奪われちまってな。財布はポケットに入れてたから平気だけどさ」

「そうでしたか」


「そんなわけで、ちょっと漁らせてもらうぜ。あと、父さんとかはどうしてる?」

「今頃は夕食です」


「わかった、色々取りに行くから待っててくれ。カリーナ、ゼルを頼んだ」

「了解しました」

 カリーナが降りてきた穴から這い出て物置部屋で立ち上がる。窓は無く、陽の光が入ってこないが、勝手知ったる物置だ、すぐにドアまでたどり着ける。


 手を前に突き出して物の位置を確かめながら着実にドアへと近づく。が、俺の記憶では無かったはずの物に足が引っ掛かって盛大に転んだ。

 それを起点にしてありとあらゆるものが雪崩のように俺へ降り注いできた。


「おおおおおおお!?」

 皿や壺が割れる音、剣や槍、甲冑等がガラガラと音をたてて崩れる。その物品の洪水に呑まれた俺は最下層に埋められた。


 ドタドタと慌てた足音が近づいてくる。最悪だ。家族全員が駆けつけてきている。

 動かすこともできず、カリーナも助けには来れない。五年ぶりの再開が泥棒じみたものになるとは、誰が予想したか。


「誰だ!」

 ばたん! とドアが強引に開けられ、父の怒声が部屋に木霊する。倒壊した物の間から怒った髭面の父親が見える。その後ろには不安そうな顔をした母親がいた。

 兄と姉はいないようだ。仕事が忙しいのだろう。


「誰かいるのか!? 出てこないと魔法で焼き尽くすぞ!」

「父さん、俺だよ」

「ゆ、ユーリィか?」

 俺を探して両親がキョロキョロと部屋の中に目を向ける。


「ここだよここ。悪いけど、助けてくれない?」

 数十分後、説教されながら俺は物の山から引っ張り出された。カリーナとゼルも手伝ってくれて思ったよりも早く脱出できた。


 そして、母の魔法で俺が壊した貴重な品々は全て元通りに復元された。やはり魔法は便利なものだが、俺には合わないとつくづく感じる。


「いやはや、助かったよ。どうもありがとう」

「久しぶりだな、ユーリィ。15年もほっつき歩いて……」

「は? 十五年?」


「そうだ十五年だ! 一度も顔を見せずに私達がどんなに心配したか……」

 そう言うと、父さんは声を詰まらせ、俺の肩に手を置いた。

「十五年……?」


 こういう時は謝罪しながら父の肩に手を乗せるべきなのだろう。しかし頭の中は別の事でいっぱいだった。

 俺が家でしたのが十四歳、一人で活動していたのが二年ちょっとだ。その後ディアラに誘われてシャービスに入り、捨てられたのが三年目の今日だ。


 何度計算しても五年だ。どこで十年が加算されたのだ?

 これまでの活動からありとあらゆる原因を探るが、一向に思い付かない。


 固まっていると、ゼルが服の裾を引っ張ってきた。苦笑いをして、何か言いたそうだ。

「ごめん、父さん。ちょっと待ってて」


 父から離れ、ゼルグリアの方を向く。しゃがめと指示され、こそっと耳打ちされる。

「言い忘れていたが、私が封じられていた場所は時間がめちゃくちゃなんだ。今回は十年のズレですんだから良かったが」

「とんでも空間すぎないか?」

 小声で話し合っていると父と母がゼルに気がついた。二人ともきょとんと不思議そうな目で彼女を見つめる。


「こ、こんにちは。私、ユーリィさんにお母さんを探してもらってるんです……」

 先程までの大人びた声色から少女のような柔らかい声へといきなり変化した。変わり身の早さに驚き、思考が止まる。


「お前の子じゃないのか?」

「あ、ああ……俺の子じゃないよ。町で拾ってね。各地を訪れるついでに親を探してるんだ」

 怪しまれないように何とか取り繕って話を続ける。


「それで姉さんのお古を貰いに来たんだけど、ある?」

「大量にあるわよ。それよりお風呂に入ってきなさい。夕飯も用意しておくから」


 父を押し退けて母がゼルを抱き上げた。カリーナに古着を出すように指示をして彼女らは物置を飛び出していった。

 取り残された俺と父は顔を見合わせて少しだけ笑った。


「そう言えばお前が死んだとかいう記事を昔、新聞で見たのだが……」

「ああ、ちょっとしたデマだよ。俺の事を恨んでる奴が流したらしいね」

 ──なるほど、世界では俺は死んだ事になっているらしい。


 それなりに顔の知られている俺が町をうろついたら記者が飛んでくるかもしれない。そしてそれがディアラ達の耳に入りでもしたら厄介な事になる。

 ならば今晩中にアレを覚えるしかない。

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